P002 学校帰りに芦屋川駅で送迎の車を待っていると
学校帰りに
「なあ、朝希ちゃん。さっきの何? クラスでいじめられとんか?」
後部座席で通学カバンをごそごそ漁った夜乃が、使用済みの体操着を強引に手渡してくる。
「別に。何もないよ」
洗ってから返してよと思いながら助手席で受け取ると、夜乃の隣に座っていたまひるが、「いじめ?」と反応した。
「ううん、違うの。クラスメートの華代ちゃんに、お兄ちゃんのことを教えてしもてん。そしたら想像以上にがっつかれてなあ」
「ああー」まひるは苦々しい表情で頷いた。
「私は柊くんのこと、あずみ以外のお友達には内緒にしとうで。だって絶対、理解されへんもん」
まひるは同じクラスに通う親友の名前を口にしながら、さっと顔を曇らせた。
朝希子は自分の脇が甘かったと反省して、なぜ教えてしまったのだろうと考える。どこかで柊お兄ちゃんのことを自慢したい気持ちがあったからではないか。
すると突然、夜乃が興奮した猿のようにばんばんとサイドガラスを叩きはじめた。
山井がぎょっとして振り返ったが、音の出所が末っ子とわかると、すぐ前に向き直した。姉たちも慣れっこで、淡々とスマホをいじったり窓の外を眺めたりした。
「何で? うちは将来の旦那様はこの男やって、クラスじゅうに画像を見せて歩いとうで。だってお兄、ばりかっこいいやん!」
車がゆるやかな曲線道路を上りながら三姉妹の住む
六甲山麓に広がる数百坪以上の庭つき豪邸が立ち並ぶこのエリアは関西屈指の高級住宅街で知られている。街の景観を守るために、コンビニや自動販売機はおろか電柱や信号機すら姿を消す。
助手席の窓を開けて、風に当たりながらうとうとしている朝希子の背後で、夜乃が「お兄!」と素っ頓狂な声をあげた。
見ると、車の斜め前方にクロスバイクに乗った柊がいた。涼しげなブルーのシャツを着て、汗ひとつかかず長い脚で気持ちよさそうにペダルを漕いでいる。
「お兄ちゃん、きょう帰ってくる日やったん?」
朝希子は半分眠りかけていた目をぱっと見開いた。
「柊くん! 借りてた本、読み終わったで」
まひるも負けじと窓から呼びかけたけど、彼はちらっと視線を寄越して軽く手を挙げただけだ。
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