第2章 殺人ゲームアプリ
1話 高校教師
女子高生として慣れてきた1年の夏だった。
おもしろいアプリがあるという噂を聞いた。
嫌いなやつをゲームの中で殺せるというストレス発散ゲームだとか。
アプリを起動すると、突然、スマホのアプリに吸い込まれてしまった。
別世界に連れて行かれてしまったの。
真っ暗な空間を通じて。
私は女子高生だけど、ストレスばかりの毎日。
だいたい、女性のクラスメイトは、私を見下すというか、マウントばかりとってくる。
紬と別れて以来、心を許せる友達はいない。
私は、男性の体に違和感があり女性の体になったの。
また、男性を好きになる気持ちが強かったのも女性になった理由。
だから、女性そのものが好きなわけじゃない。
女性になって特に思うんだけど、女性って本当に嫌な生き物。
本心を隠し、笑いながら相手の女性を蹴落とす。
陰湿な嫌がらせをする。
私は、そんな女性にはなりたくない。
誰のことも思いやり、やさしく包み込む女性でいたい。
でも、こんなこと考えるのは、まだ本当の女性になっていないからかもしれないわね。
男性への憧れは、前より強まっているかも。
昔なかったのは、男性に包みこまれたい、抱かれたいという妄想。
夢の中でも、いつもじゃないけど、男性が私を抱きしめる。
たぶん、この体の女性ホルモンによるものだと思う。
子どもを産む準備をしているのかしら。
なんか、男性が横に来ると恥ずかしくなって下を向いてしまう。
男性どうしで話しているのをみると、本当にあどけない。
お互いに友情を感じ、今を楽しんでいるみたいね。
私は、そんな男性が素敵だと思う。
女性の嫌らしさとは違う。
本当は、男性の中に飛び込み、みんなにちやほやされたい。
多分、そうすれば、みんなが優しくしてくれると思う。
よくドラマとかである、幼馴染的な。
でも、そんなことしたら、女性陣からの攻撃はと想像すると目も当てられない。
だから、地味に、教室では、1人で本を読んでいる。
暗いと思われるかもだけど、女性たちからいじめを受けるよりはましだもの。
だから、女性も男性も友人とか作ろうなんて気になれなくて、私は1人が好き。
ボッチとかいう人がいるけど、どこが悪いのかしら。
本当は、もっと明るく生きようと思っていたけど、無理だったかな。
でも、最近、昔からは少し性格が変わったような気がする。
ホルモンとか、体から考え方への影響とかあるのかもしれないわね。
なんか、少し殺伐というか、強くなったかも。
また、自分を責めることも少なくなったような。
自己肯定感が強まったというか。
例えば、ボッチなのは昔から。
でも、それでなにが悪いんだと思うことが増えた。
むしろ、人に依存する人の方がくだらないと思うようになった。
心に開いた穴を友達とかに埋めてもらわないと生きていけないという人の方が人間的にダメ。
というか、生きる価値がないんじゃないかと思うとか。
いずれにしてもボッチの生活。
とはいっても、周りの人のせいで自宅に閉じこもるなんておかしいわよね。
だから、毎日、学校には行ってる。
そうすると、人と会っちゃうからストレスを感じるの。
この世から、人がいなくなればいいのに。
いつも、そんな事を考えちゃう。
人がいないと困るかしら。人がいるから困るんでしょう。
この世が私だけだったら、着飾る必要もないし。
適当に、周りにあるものを食べていれば生きていけるかも。
そうそう、アプリの話しだったわね。
調べたけど、このアプリは App Store とかでは出てこない。
噂では、あるメールアドレスにメールを送るだけ。
そうすると、ダウンロードサイトが送られてくるということだった。
私は、面白半分で、噂にあるそのメールアドレスにメールを送ったの。
たしかに返信があり、ダウンロードができた。無料アプリとなっている。
そして、ログインの画面で、私の氏名とかを入力してユーザ登録をしたら開始。
なんか、画面とかダークな感じでセンスがいい。
嫌なやつを、このサイトで殺せそうな雰囲気が漂っているもの。
本当に殺したりしないんだろうけど。
さあ、誰を殺そうか。アプリの中で殺すとスカッとするのかしら。
発想が面白いわよね。現実には、どんな嫌なやつでも殺せないし。
殺し方は、どうなっているのかしら。
まあ、やっていれば分かるわよね。
私は、高校で嫌いな男性の先生がいた。
いつも、いやらしい目で私たちをみている。
この前、私を見てるなと思ったら、その目線の先には、私のバストがあったの。
本当に、気持ちが悪い。
私の身体に、汚らしいものがまとわりつく感じっていうと、分かってもらえるかしら。
なんで、あんなやつが先生なんてやってるんだろう。
この前も、私のバストからだんだん目線が下に下がってきたわ。
その目の先をみると、この女性はどんなパンツをはいているのかって感じ。
腰に手をまわすと、この女性は喜ぶんだろうななんて考えていると思ったら吐きそうになった。
しかも、本人はどう思っているかわからないけど、男性としての魅力ゼロ。
カエルのような顔をして、髪の毛も薄くてハゲと言ってもいい。
からだもぶくぶく太り、足も短い。
女子生徒と問題を起こしそうにないともいえるけど、気持ち悪い。
まずは、試しにということであれば、この先生がいいわね。
河上先生と投入したとたん、スマホの画面に黒い煙のような穴がでてきたわ。
私は、どういうわけか、そこに吸い込まれてしまった。
その時は、今どきのアプリはすごいなという程度で、あまり、違和感がなかったの。
真っ暗な夜道で、街灯の下に私は立っていたことに、それ程驚いてはいなかった。
違和感まんさいなのに。
ポケットに手をいれると、そこにはナイフが入っていた。
これがアプリが用意した武器ということよね。
そこは、どこか知らない道で、東京の郊外にあるような住宅地。
駅から伸びる商店街のような道で、一軒家のお店は道沿いにずっとある。
どれもシャッターが閉まっている。
さっき夜の11時だったものね。
道はそれ程広くないけど、車がなんとかすれ違うことができるぐらいの幅。
道路沿いに木々とかはない。
それでも、いくつかのお店の前には鉢植えの花とかはある。
そろそろ梅の盆栽とかのお花が咲きそう。
アスファルトの道の両脇に歩道があり、いずれも2階建ての建物しかみえない。
道沿いにある電灯が道を照らしてるから、そんなに暗くはないわね。
この時間なら、誰か道を歩いていてもおかしくないけど、誰もいない。
すぐそばにコンビニもあるけど、人気は感じられない。
店員もいないのかしら。
でも、人がいないだけで、見える光景はすごくリアル。
VRのメガネとかつけていないのに、どうなっているのかしら。
最新の技術って、すごいわね。
そんなことに感心していると、さっきアプリに登録した河上先生が酔っ払って歩いてきた。
「おい、工藤か? こんな時間、夜道を歩いていたら危ないだろう。僕が家まで着いていってあげよう。」
「自分で帰れるのでいいです。」
「遠慮するな。」
先生の姿も本当にリアル。どこから見ても、学校で見る姿と変わらない。
しかも、吐く息からお酒の臭いにおいまでする。
先生は、いやらしい目で私を頭から足まで、ニヤつきながら見てきた。
そして、私の肩に手を回してきたの。
本当に気持ちが悪い。私は、無意識に、先生を両手で押していた。
「何をするんだ。お前のことを思って言ってるんだぞ。」
そう言って、先生は、ふらつきながら、再度、私の肩に手を置いた。
酔っ払って私の体に触れる先生が、本当に気持ちが悪い。
思わず、ポケットからナイフを取り出し、先生のお腹を下から刺していた。
ナイフを上向けにお腹を刺し、上に上げる。
そして、そのまま、ぐるっとナイフを回し、右に切り裂いた。
先生は、何が起きたのかわからず、激痛のあまり、お腹を抑えて仰向けに道路に倒れたの。
助けてと私に手を伸ばしてくる。
どうしよう。先生は犯人が私だと分かっている。
生き延びれば、私に刺されたと言うに違いない。
アプリでも、ここまでリアルだと、現実じゃないって言い切れないかも。
だから、殺すしかないわね。
私は、もう一振り、心臓をめがけてナイフで刺した。
血しぶきがあがり、私の顔、シャツも血だらけになっている。
こんなカエルのような先生の血なんて、本当に気持ち悪い。
早く、体を洗わないと。
でも、痙攣してもう死にそうな先生をみて、急に怖くなったの。
私は、ナイフを投げ捨て、ひたすら走って逃げた。
もう、ここまですれば生きていないはず。
私が犯人だと証言はできない。
でも、これは快感。
あんなに嫌いだった先生を、この世から追放することができたのだから。
私は、走りながら、アプリの幻想なんだろうななんて考えていた。
周りは見たことがない風景だし、誰一人歩いてもいなかったから。
それからの記憶がない。目が覚めたら、自分の部屋のベッドで寝ていた。
そういえば、アプリで殺人ゲームをしていたんだ。
あれは、アプリの中の出来事。本当に人を殺したわけじゃない。
でも、本当にリアルだった。
こんな経験ってあるんだとびっくりしていたけど、とても快感。
日々のストレスは発散し、気持ちよく、そのまま眠りについたの。
翌朝、学校にいくと、学校は大騒ぎになっていた。
河上先生がナイフで刺されて殺されたんだって。
もともと女子生徒から嫌われていたから、誰かから恨まれたんじゃないの。
そんな噂になっていて、先生をかばう人なんて誰もいなかった。
そして凶器のナイフには河上先生の指紋しかなく、近辺の監視カメラにも不審者がいなかった。
まるで自分を刺したみたいだって。
あれって、現実だったの?
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