7話 幽霊としての生活
テロ集団の報復で私は幽霊として暮らしてきた。
そして、組織は、私を女子高生の体に入れることを約束している。
その集団の暗躍を止めたことへの謝礼として。
その女子高生の魂は私が入り込むことで潰える。
ごめんなさい。でも、私は自分が大切なの。
「じゃあ、約束だから、女子高生の体に入らせて。」
「わかった。ただ、想定していた女子高生はもう別の人に譲ったんだ。」
「それって、約束違反じゃない?」
「いや、もう別の女性を見つけてある。ただ、今中学2年生で、我々は、環境が一変する高校1年になるときに変わるのが一番だと判断した。こんな形で公安が体を奪っているなんて知られたくないしな。」
「どういうこと?」
「だから、あと1年後だということだ。」
「え、あと1年もこの姿でいなければだめということ。」
「悪いな。だけど、あと1年経てば女子高生だ。損な話じゃないだろう。また、女子高生になっても、我々の組織のために働いてもらえるよな。当面は女子高生だから、PCで悪い組織のデータをハッキングしてもらうことだ。あなたの得意技だろう。報酬も出す。」
「まあ、そのぐらいのことなら。」
「では、1年後の今日、起きたら、ご希望の女子高生の体だ。これからも、よろしく。」
私は、1人取り残されてしまったの。
祐一は、どうしてか今は横にいない。
祐一だけ、誰かの体に乗り移ったんだと思う。
私は、暇だから、いろいろな男性の家に入り、その男性を観察することにした。
夜に部屋で男性を見ていると、どうも気配がわかるらしい。
何回も、誰かいるのかと見つめられた。
どうも私がいると、人間は寒さを感じるらしい。
また、私が横にいると、気持ちが暗くなり、闇の世界に引き込まれるみたい。
私の横にも、幽霊がいたのかしら。
だから、そんなに長い間、1人の男性の横にはいられない。
部屋は暗闇に包まれ、淀んでいく。
そして、男性は心を病んでいき、このままだと自殺してしまう。
だから、観察できるのは3週間ぐらいが限度。
最初は、そんなこと知らなかったから、観察していた男性は自殺しちゃった。
夜、家をでていって、トラックが迫る前に寝間着のまま飛び込んじゃったの。
でも、昼間は、あまりに眩しい陽の光を浴び、気配は感じないみたいね。
昼間は幽霊がいないんじゃなくて、幽霊が見えないだけということを知った。
これまで仲の良い男女ばかりが目に入ってきた。
でも、客観的に見てみると、1人でいる男性が多いことに気付いたの。
女性は群れて暮らすけど、男性は友達と過ごすと同時に1人で暮らす時間も長い。
そして、女性と違い、性欲が強いみたい。
私も、昔は男性だった頃もあったから、わかる。
体を突き上げるような性欲。
男性のときは、それが汚らわしくて嫌いだった。
自分が汚れているように感じたもの。
でも、幽霊として観察していると、1人エッチを楽しんでる男性が多いこともわかった。
もう女性なんていなくても生きていける時代を映し出しているみたい。
草食で、女性に声をかけられずにいるのかもしれない。
また、男性が仕事をしていくのは大変だとも思った。
もちろん、女性からの嫌がらせはある。
でも、女性は、かわいいだけで職場の花になれて、男性から応援される。
男性は自分の力で前に進んでいくしかない。
ところで、最近は生理がなくて本当に楽。
これだけは、幽霊になって唯一いいこと。
生理って、本当に人生の4分の1ぐらいを暗くしているもの。
精神状態も不安定になる。
急に悲しくなったり、生理が終わると急に性欲がでたり。
心が体に大きく揺さぶられる。
もう慣れたけど、血の処理も好きじゃない。
シャワーを浴びても、足に流れる血って、ぬるっとしていて気持ち悪い。
間違って、パンツに血が着いたりすると最悪。
寝てる時にシーツに付くのも嫌だし。
でも、いいの。私は女性の体になりたかったんだから。
これは子どもを産むための体の仕組み。
むしろ、将来には子どもを産みたいもの。
そして、私はもうすぐ、生身の人間に戻れる。
その体は、これまでどう生きてきたのかしら。
上司から聞いていた女性のもとに来てみた。
明るくて、はじけるような女性だったわ。
この人になれたら、充実した生活を送れそう。
中学では、その女性は、ヒップホップをやっていた。
将来は、アイドルになりたいとも友達に話していたの。
私とは縁遠い世界。なんか眩しい。
でも、やっぱり女性ね。
影では、辛いレッスンに挫け、自分なんてだめな人と泣いていた。
そして、トップに選ばれた女性を憎くみ、影ででたらめな噂を流していた。
SNSにその女性のニセアカウントを作り、あたかも本人のように写真をアップする。
そして、毎日、男性への妄想をアップする。
1週間ごとに違う男性の写真とともに。
体がほてる。
抱きしめてほしい。
あなたの棒がほしいなんて。
ときには、できちゃった子を堕ろしたなんてことも書いていた。
最後には、あそこの写真までアップしている。
自分のあそこを写真に撮って。気持ちが悪い。
肌を露出しすぎで、男性にだらしない人。
まだ中学生なのに、何人もの男性と寝てるなんて噂が広まる。
隠し子もいるとかも噂されていた。
そんな噂に、その女性はトップの座から滑り落ちてしまう。
そして、家に引きこもって出れなくなったみたい。
そんな話しを聞いて、その子は笑っていた。
あなたが悪いの。
私のことを邪魔するから。
くだらない女性なのにと。
私は、久しぶりに女性の闇をみた。
だから、公安はこの子に目をつけたのかもしれない。
このまま放置しておけば、闇の世界で敵になるかもしれないと。
それに比べれば、私は本当に善人。
私だったら、自分の部屋に閉じこもるだけ。
相手を蹴落としてまでトップに上り詰めたいなんて考えたりしない。
最初は天真爛漫な子とも思ったけど、結構、裏表が激しい子だった。
でも、安心して。その体を私が貰えば、上品な人生を過ごせるから。
私は、平凡で地味だけど、心の起伏はなく落ち着いて過ごせる。
まあ、この子の体を奪おうなんて、私も悪人なのかもしれない。
ごめんなさい、翠さん。
ゆっくりお休みなさい。
その体、大切にしていくから許して。
やっと1年が過ぎた。
明日が、女子高生になれる日。
私は、目をつぶった。
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