4話 彼との再会
土曜日は、昨晩コンビニで買ったクロワッサンを食べていたの。
私は、高校の時に悲しい別れをした湊くんの顔を思い浮かべていた。
この体なら好きになってもらえるはず。
また、会いたい。会って、一緒に同じ時間を過ごしたい。
私は、持ち出していた同窓会名簿を探した。
昨年、出席はしなかったけど、同窓会もやっていたし、住所はわかるはず。
湊くんは、港区の私立高校の先生をしていた。
そして、広尾に住んでいた。
私は、家を出て、いつのまにか湊くんの家の前で佇んでいた。
いつ、湊くんの顔を見れるかとドキドキして。
2時間ぐらい経ったころかしら。
陽は暮れていくなかで、目の前を湊くんが通る。
湊くんは、もちろん私のことなんか気づかずに通り過ぎ、わずかな風を感じる。
あの、湊くんがすぐそばにいる。
湊くんを追いかけて走り出しそうになったけど、思いとどまった。
まだ早い。
今、話しかけたら、誰って警戒されちゃうでしょう。
湊くんは、部屋に入り、部屋の電気が灯った。
とても、懐かしい、暖かい光だった。
私は、毎日、会社を定時であがり、湊くんが職場から帰る姿を見続けた。
そして、今晩、夕食だろうか、湊くんが家の近くの居酒屋に入っていくのを見かけたの。
結構、混んでいる居酒屋。人気なのかしら。
私も、後を追い、その居酒屋に入ってみたの。
「お客さん、1人ですか?」
「ええ。」
「すみません。今は満席で、あと30分ぐらい待ってもらえれば空きそうなんですが・・・。」
「あそこでお一人の男性の席は、まだ座れますよね。相席とかできないかしら。」
「お知合いですか?」
「いえ、そういうわけじゃないけど。」
「もし、お客様がよろしければ、聞いてみますね。」
店員は、少し先の湊くんに話しかけていた。
そして、湊くんが振り返り、私の方をみるとうなずいた。
「お客さん、大丈夫だそうです。では、こちらにどうぞ。」
「ありがとう。」
私は、透け感のあるリブニットと、ブラックのパンツ姿。
女性となったこの姿をみてもらいたくて、湊くんをいつのこの姿で追いかけていたの。
ボリュームのあるバストも、湊くんに見てもらいたい。
「お嬢さん、こんなさえない男性と一緒でいいんですか?」
「ええ、混んでいて30分も待つというし。」
「別の店もあるじゃないですか。」
「なんとなく、今日は焼き鳥という気分で、目の前に焼鳥屋があったものですから。」
「あまり、話しかけない方がいいですね。お一人での入店でしょうし。」
「そんなことないです。逆に、話しかけていいですか?」
「いいですけど、特に面白い話しはないですよ。」
「そんなことないでしょう。おにいさん、お仕事は何をしているんですか?」
「高校の教師です。つまらない仕事ですよ。」
「そんなことないでしょう。将来を期待される若者を育てているんでしょう。どこの高校ですか?」
「麻布高校です。」
「すごいじゃないですか。とても頭が良くないと入れないんでしょう。」
「まあ、そうなんですけど、高校の先生なんて、空気みたないもんですよ。」
「そうかな?」
目の前には、昔輝いていたのに、暗めの男性が座っていた。
湊くん、今は充実した生活を送っていないの?
私に楽しい生活を演出させてもらえないかしら。
「部活のコーチとかはしていないんですか?」
「軟式テニス部の顧問をしています。」
まだ、軟式テニスを続けていたんだ。
湊くんと一緒に組んで活動していた頃の思い出が蘇ってきた。
「そうなんですね。じゃあ、学生と一緒に汗を流して充実してるんじゃないですか。」
「そんな感じでもないですよ。私はただ、管理しているだけで、部活は学生に任せてるんです。」
暗い話しが続いたけど、湊くんは、お酒がまわったのか陽気になっていた。
「お嬢さん、おきれいですよね。彼とかいないんですか? そうか、いれば、こんな居酒屋に1人で入ってこないですものね。こんなおきれいな女性を放っておくなんて、世の中の男性は見る目がない。」
「そんなことないですよ。どこにでもいる女性ですから。そんなこと言うなら、私と付き合ってみますか? 無理ですよね。口ばかりなんだから。」
「そんなことないです。じゃあ、連絡先、交換しましょう。」
「うれしい。LINEやっているでしょう。このバーコード読み込んで。」
「LINEね。どこかな。」
「ここ。」
「ここね。あ、できた。じゃあ、また連絡しますから。」
「私からも連絡していい?」
「いいよ。じゃあ、そろそろ帰ろうか。もうだいぶ飲んだし。」
「そうね。家はどこ?」
「ここからすぐなんだ。」
私たちはお店をでて、湊くんは、駅まで送ってくれた。
私は、さりげなく湊くんの腕を抱えた。
バストもあたるように。
私はこんな魅力的な体になったの。
湊くんから抱きしめてもらう資格のある体に。
もう、引け目なんて感じる必要はない。
そして、駅でうつむきぎみで、手を小さく振って別れる。
最後に、不意に耳元に口を近づけ、また会いたいとつぶやいた。
だいぶ酔っ払ったのか、OK、OKと言いながら湊くんは帰っていく。
よろけながら・・・。
毎週末、湊くんと飲みに行くようになったわ。
そして、この前会った時に、大阪のUSJに行こうという話しになった。
まだ、会ったばかりなのに、すぐに返事していいか迷ったけど。
行かないという選択肢はなかったの。
「どう行こうか? 調べてみたんだけど、東京駅八重洲口から10:40発で開場少し前にUSJに着く夜行バスがあるんだけど、どう? 夜行バスって疲れるかな?」
「そんなのがあるんだ。便利だし、それがいいんじゃない。1晩ぐらいなら疲れないと思う。」
「わかった。じゃあ、予約しておくね。それから、メジャーなアトラクションは並ばなくても入れるというエクスプレスパスにしておくね。」
「そんなのがあるんだ。入場券だけで1万円、すべてのアトラクションが並ばなくては入れるチケットは、入場券に4万円プラスかな、あとはその中間だね。」
「5万円は高いかな。こんなに種類があるんだ。4つのアトラクションが並ばないでいい1万円ぐらいでいいんじゃない。そうすると合計で2万円なのね。じゃあ、それにしよう。」
「でも、ユニバーサルパスって面白いね。地獄の沙汰も金次第というか、大坂らしいじゃん。」
東京駅の近くの居酒屋で夕食。
酔っぱらったのかしら、バスの中ではぐっすりと眠れたわ。
USJに着いたというアナウンスとともに起きた。
わくわくするUSJでのアトラクション。
ハリーポッターのお城も素晴らしかった。
また、ナイトパレードも素敵だった。
本当に楽しかった。
1日があっという間だったわ。
「そろそろ時間ね。帰ろうか。帰りはまた夜行バス?」
「いや、一緒に泊まろうと思ってホテルを予約しているんだ。」
「え、一緒に泊まるのはまだ早いような・・・。」
「昨日だって、バスに一緒に泊まったようなものじゃないか。いいだろう。」
もう断れなかった。
私自身が、湊くんに抱かれたい気持ちを抑えられない。
湊くんが予約した大阪市内のホテルに向かい、その前のフレンチで夕食を取った。
恥ずかしくて何も話せずに、笑ってるしかなかったの。
そして、ホテルの部屋に入り、私からお風呂に入る。
さすがにすっぴんを見せるのはどうかと思うでしょう。
ファンデーションでナチュラルカバーした。
薄手のリップもつけて。
ブラとか、お泊りだったら、もっと考えたのに。
でも、今日のインナーはそれほど悪くもない。
私が髪の毛を乾かしている間に、湊くんはお風呂に入っていった。
そして、すぐに上がってくると、私を後ろから抱きしめ一言いう。
「素敵だね。」
私は恥ずかしくて下を向くことしかできなかった。
そして、湊くんは、私を抱きかかえてベッドに促した。
「まだ早い。」
「大丈夫。僕に任せて。」
それからは本当に幸せなひと時だった。
高校から見てきた夢が今日、叶ったの。
湊くんの腕に包まれている私がいる。
もっと、私の体を見て。
あなたのためにこの体になったのだから。
あなたの子供も産めるのよ。
あなたと幸せになる。
私は、湊くんが眠った後も、湊くんと、その子供の3人で公園で過ごす姿を想像していた。
湊くんとの子供。本当にかわいらしい。
私が作ったお弁当を、ありがとうと言って笑顔で食べる湊くんがいる。
高校の時は、体だけの問題で、本当は繋がれる心が繋がれなかった。
でも、私は、湊くんに愛される体になれたの。
もう、湊くんと私の間を阻む壁はない。
そして、いつの間にか私も眠りに落ちていた。
朝日が窓から差し込む。
「あら、起きていたのね。おはよう。昨日は素敵な1日だった。これからも湊くんとずっと一緒にいられると思うと幸せ。」
「湊くんって、他人みたいだね。もう健一でいいよ。僕も、澪と呼んでいいだろう。」
「そう呼んでくれると嬉しい。」
「ところで、はっきりしておきたいことがある。」
「なに?」
「僕は、3か月後に結婚するんだ。」
「え?」
「澪だって、セフレとして付き合っていたんだろう。だって、居酒屋で飲んでから、すぐにここまできたし、僕のことなんてほとんど知らないじゃないか。僕のことで知っていることといえば、高校の教師ということだけだろう。それ以上、聞かれたこともないし。それでも、こういう関係になれるんだから、エッチをしたいときだけと考えているんだろう。いまどきじゃないか。これからも、割り切った関係を続けていこう。」
私は何が起こったのかわからなかった。
でも、泣き叫んだりしたら、もう湊くんと会えないことはわかっていた。
私が湊くんのことを知っていることを湊くんは知らない。
だから誤解したのかもしれない。
でも、湊くんとこうなりたくて女性になったなんて今さら言えないもの。
私は、すぐに結婚することを知りながら、湊くんと時々エッチを繰り返していた。
こんな関係はダメだと分かっていながら、どうしょうもない。
でも、教会の外から、結婚式をあげる湊くんを見たとき、涙が止まらなかった。
湊くんの横にいるのは私だったのに。
もう、湊くんとの子供は産めない。
お腹がきりきりと痛んだ。
もう別れよう。
奥様は悪くない。そんな人を悲しませてはだめ。
私は、湊くんのLINEに分かれるとメッセージを送り、アカウントを削除した。
さようなら。湊くん。
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