第5話 近すぎる先輩の視線

 颯太オレは、放課後の廊下を一人歩く。書類の束を届けるために職員室へ向かうところだった。


 その途中で、白峰先輩とばったり鉢合わせする。


 先輩と目が合うと、オレは少し身構えた。けれど白峰先輩のほうは、どこかやわらかな表情を浮かべている。


「颯太君、書類を届けに行くのね。ちょうどよかったわ」


「あ、はい。先輩も用事ですか?」


「ええ、学園祭での報告があってね。一緒に職員室に行くわけだし、今度はわたしが手伝うわよ?」


 白峰先輩がそんな言葉を口にして、不意に体を寄せてくるものだから……オレは思わず足を止める。心臓が大きく跳ねた。


「せ、先輩……ちょっと近い……」


「そう? でもこうしないと、受け取れないし」


 白峰先輩はさらりと言うけれど、その瞳には何か秘めた熱を帯びているようにも見える。オレはごくりと息をのみながら、先輩に視線を返した。


「じゃ、じゃあ……早く書類を受け取ってください……」


「ふふ、そうね。まあ、気を悪くしないでちょうだい」


 白峰先輩はそう言うと書類を受け取った。


 オレは少し戸惑いながらも、白峰先輩と並んで歩き出す。相変わらずクールなはずの先輩が、どこか楽しそうにしているのが意外だった。


(オレ……なんでか興味をもたれている……?)


 そんな疑問を抱えながらも、一方で胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。


 学園を象徴するような美少女が、オレを見てくれている――その喜びと緊張が入り混じり、足元が宙に浮いたような気分になるのだった。

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