聖獣たちの活躍
トレフル・ブランの作戦は、
「あのオッサンが、領地民から適正な税金を取り立てたり、顧客と誠実な取引をしているはずがないよ。そして、不正には必ず証拠が残る。ここは貴族特権の強い国だから、よほどのことがない限り警察が自宅を捜索することはないだろう。絶対に、手元に証拠を残しているはず」
トレフル・ブランは、ポケットから『
「先生お手製の、リアルタイムで映像を確認できる代物さ。ブランカたちにこれをつけて行動してもらえば、その映像がこっちの鏡に映し出されるよ」
「……お前の師匠、相変わらずとんでもないもの作ってんな」
ソーカルが呆れたように言うのも無理はない。映像を記録する魔道具はあっても、同時進行でその映像を確認できる魔道具は、少なくとも一般には普及していない。
しかし、トレフル・ブランのポケットから変わった発明品が出てくることにはもう慣れっこの一同は、そのまま話を進める。
「二重帳簿が存在しないか、麻薬とかの不正な品物を流通させていないか、国に報告したのと同じ税金を徴収しているか……そういったものが見つかれば、司法局が介入する口実になるでしょ?」
「まぁな。できれば国際的な不正だとなおいい」
ソーカルの言葉に、ユーリが挙手する。
「それは、本家に連絡を入れて、怪しいものを探ってもらいます」
「ん? お前んち、実家は鍛冶屋で、本家は騎士だろ?」
「騎士の武具をあつらえるために鍛冶屋が生まれ、その品物を売るために商家が生まれ、商品を運ぶために運送屋が生まれ……うちの家は古すぎて傍系もたくさんあるんで、だいたいどの分野にも顔が利きますよ」
あまりユーリを怒らせないようにしよう、とトレフル・ブランは密かに思った。
「でも、それでどうやって奴隷の少女を手に入れるんですの? 奴隷の所持そのものは合法ですわよ。お金とコネは必要ですが、正規のルートで仕入れた可能性も十分にありますわ」
キーチェの疑問を聞いて、それはそうだなとユーリも頷く。
それを見て、トレフル・ブランは小さく微笑んだ。彼らが貴族らしくない考えを持つことは、トレフル・ブランにとって嬉しいことだった。
トレフル・ブランは、一時期、養子として貴族の屋敷に住んでいた。だから知っている。貴族にとっての使用人は、家具や壁紙と同じモノでしかない。まして奴隷など、万年筆のペン先のようなもの――潰れたら取り替えれば済むだけの消耗品に等しいだろう。もしくは経済力を他人に自慢するための贅沢品か。とにかく、相手を「同じ人間だ」と認識して暮らしていないのだ。
「なかなか手に入らない違法な品物、まんまと他人をだましてお金を手に入れた実績……自慢したくなるよね? でも、大きな声では言えない。じゃあそこに、自分に絶対逆らえない存在がいたらどうだろう」
「なるほど、女の子の前で、
「本当にやってるかどうかは別として、それを理由に、彼女を証人として保護することは可能じゃない?」
おそらくやっているだろうな、とトレフル・ブランは思っている。レストランで出会ったあの貴族は、自分の持ち物を自慢したくてしょうがない虚栄心の塊に見えた。
スピーカーの向こうで、「よし、とにかく証拠だ」とソーカルが締めくくった。
こうして三人は、司法局と現地の警察権力を納得させる証拠集めに腐心したのである。
ブランカは、ハツカネズミの姿で食料品の箱に紛れ込んだ。ルザールビッシュ伯爵をぴったりマークして、その行動範囲から秘密の書類が置いてある保管庫の位置を割り出した。その鍵が置かれている場所も把握した。そして伯爵のズボンの裾にくっついて保管庫に潜り込み、今度は尾の長い猿に化けて、書類をめくっていく。文字は読めないので、『
虎の毛皮の絨毯に化けたアレウスは、動かずにじっとしている苦痛に耐え、交易品の中に紛れ込んだ。人間たちがいなくなると大型犬の姿に戻り、箱を暴いて中身を検品していく。その様子を監督しているキーチェが、違法な品物を確認し、一部をサンプルとして持ち出した。キーチェは違法な取引品の目録作りと、トレフル・ブランから渡された資料をもとに、王室と取引のある品目をアウロパディシー伯爵家に伝え急ぎ準備してもらった。
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