大捕り物
街のお正月ムードが落ち着いてきた頃。
ルザールビッシュ伯爵家に、魔道士協会司法局とラトゥア王国特捜部の合同部隊が雪崩込んだ。伯爵家所有の会社と港湾倉庫も同時に摘発された。
「絶滅危惧種等保護条約違反、密輸法違反、および脱税……えぇい、その他諸々の罪で逮捕する! 詳しくは逮捕状を読め!」
逮捕状を突きつけたラトゥア王国の指揮官は、部下に命じて恰幅の良い伯爵の身柄を確保させた。
「雑すぎるわ! こら、放さんか。ワシを誰だと思っている。ワシは貴族界の重鎮で、王室の覚えもめでたいルザールビッシュ伯爵であるぞ!」
指揮官は喚く伯爵を無視して何やらメモを読んでいる。
「えぇと、情報提供によると保管庫の鍵は……北側の壁、左から3番目、下から5番目のこの模様の上に伯爵の手のひらをかざして……おい、連れて来い」
「何故その場所を?! イヤだ、放せぇっ!」
伯爵を拘束していた兵士たちが彼を跪かせ、強引に腕を取って手を開かせる。花びらのような模様の壁に彼の手をかざすと、うっすら緑色の輝きが四角い隙間から漏れて、壁から空間が現れた。その中に置かれていたのは宝石のついた鍵で、これがこの屋敷にある重要書類の保管庫の鍵である。
鍵を手に入れた指揮官は、廊下を歩きながら数名の部下に命じた。
「使用人たちも全員拘束しろ。ただし、どの程度関与しているか分からんから慎重にな。あと、奴隷が一匹いるそうだが、そいつは国際犯罪の重要な証拠を握っているらしい。魔道士協会に身柄を引き渡すよう要請があったから対応するように」
命令は滞りなく伝達され、貧相な口髭を生やした中年の下士官は銀髪の少女を連れて、魔道士協会司法局の職員の待つ中庭へ向かった。
「やれやれ。新年早々、こんな大捕物をする羽目になるとはね。私は弟思いの優しい姉さ、そう思うだろう?」
問いかけたのは、背の高い女性。魔道士協会司法局に所属する魔道士で、特に絶滅危惧種などの希少動物の違法取引の摘発に力を入れているそうだ。現場でバリバリ密輸業者と戦う武闘派で、ユーリと同じくらい背が高く、がっしりとした体つきのと赤い髪はとても目立つ。彼女はソーカルの義姉、つまりソーカルの兄の妻だそうで、フー・ティグリスと名乗った。
「はい! ご協力ありがとうございます。ご無理をお願いしてすみませんでした」
ユーリは顔中に喜びを浮かべて、フーの手を両手で握ってぶんぶんと振り回した。トレフル・ブランにも経験があるが、まぁまぁ痛いはずだ。しかし、彼女はびくともせず飄々と笑顔を浮かべている。
「ははは、いいってことよ。密輸業者は時々摘発されるが、末端組織がほとんどだ。貴族に直接密輸品を売りさばいてる大物を捕まえられるなんて、お手柄だよ。なんでも、お前さんたちには優秀な助手がついてるんだって?」
「はい! オリオン、礼儀正しく挨拶するんだぞ」
とユーリに言われたオリオンは、明るい褐色の被毛をなびかせて、笑顔でフーの胸にダイブし、左の頬を舐め回した。ぶんぶんと振り回す尻尾でバシバシとユーリの腹を叩いている。
「このアレウスも活躍したんですのよ」
キーチェが言うと、月光色の被毛をなびかせたアレウスは、自慢げに胸を張り、少しだけ尻尾を振った。
そんな二匹の頭をちょんちょん撫でながら、フーが言う。
「お嬢さん、あのアウロパディシー伯爵家の出身だって? 今回の件、王室への納品に影響が出るからって不満が出たのを、自分のところの商会が優先的に品物を納めるからって、なだめてくれたって聞いてるよ」
「私は実家とは疎遠なんですけれど……次期当主はまともな人物のようで、ホッとしていますわ」
この次期当主というのが、キーチェの腹違いの兄にあたる。私生児という立場のキーチェは、アウロパディシー伯爵家に居場所がなく魔道士になった。今でも関係が良好とは言えないが、この度帰国して亡祖父の遺産相続のために兄弟たちと顔を合わせた際、多少の変化があったようだ。遺産の一部(主に伯爵家に古くから伝わる宝石類)と引き換えに取引をして、今回の逮捕劇への協力を取り付けた。現伯爵はいい顔をしなかったが、後継者に説得され妥協したようである。
「へぇ、お貴族様の事情はよく分かんないけど。たしか赤髪の坊主はフラームベルテスク家と関わりがあるって言ってたし。んじゃ、そっちの茶髪の坊主もなんかすごい家の人?」
「いいえ。俺はただの孤児ですよ。まぁちょっぴり偉大な魔法使いの弟子ですけど。でも、今回の敢闘賞は俺じゃなくてこいつです。ね、ブランカ」
紹介された、真っ白な毛皮のブランカは、フーに歩み寄ると軽く頬を擦り付けて挨拶をした。彼女はまたちょんちょんと白い頭を撫でた。
「へぇ、これが弟の言ってた
トレフル・ブランたち三人は笑顔で頷き合い、彼らに変身してくれるようお願いした。
オリオンは、手のひらサイズの
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