三人の見習い魔導士

 三人は、今期の見習い魔導士試験を受験した同期の関係だ。


 魔導士とは、魔法が使える者の中でも、魔導士協会が定める正式な認定を受けた資格を指す。大きく上級・中級・初級の三つに分類され、三人はまだ「見習い」、つまり研修期間の身の上だ。担当教官の指導のもと、課題製作、適性検査、昇格試験を突破して、ようやく初級魔導士と名乗ることが出来る。

 魔導士の主な就職先は、行政機関。特に、通信・物流の分野では魔導士たちが活躍している。三人が入国の際に通過した移動用魔法陣テレポーターも、運輸局に所属する魔導士たちによって運営されている。


 しばらく夜景と夜店を楽しみながら歩いていた三人。

 人の海が、彼らの姿を認めるとすーっと割れる。たまに、怖いもの知らずの子どもが駆け寄って来たり、犬の散歩をしている飼い主が声をかけてきたりする。

 理由は、三人が連れている動物たちにある。

 大きさは大型犬と同じくらい、後ろ足で立ち上がると、トレフル・ブランと同じくらいの背丈になるのではないだろうか。四足歩行、密集した毛皮、突き出た鼻と鋭い牙の並ぶ口、太く左右に揺れる尻尾――犬にも狼にも見える。

 首輪とリードを装着しているとはいえ、そんな生き物が三匹も集まっていれば、たいていの大人は怖がって近寄らない。そしてこの三匹は、非常に目立つ毛皮の色をしていた。


 トレフル・ブランが連れている白い犬(一応、犬と呼ぶ)の名はブランカ。名前の通り、白くふさふさとした毛並みで、落ち着いた性格をしており、ぼんやり人混みを見渡しているトレフル・ブランの左隣を静かに歩いている。特にブランカは『白き闇の獣』を連想させるためか、怖がられる傾向にあった。

 キーチェが連れているのは、月光のような金色の光を帯びた被毛を持つ犬で、他の二体に比べ首周りの被毛が一段と豊かだ。名をアレウスと言う。優雅に尻尾をくねらせ、つんと顎を上げて歩く様子に気品を感じる。

 ユーリにじゃれついている明るい褐色の個体はオリオンという名で、陽気な表情をした陽気な個体である。おとなしく歩いていることはまれで、たいていは通行人に愛想を振りまいている。


 今も、ユーリが少し食べ物の匂いに気を取られた隙に、オリオンがへぇへぇ息を弾ませながら人間の手を舐め始めた。

「おっと、すみません! 犬、嫌いじゃないですか?」

 手を舐められていた黒髪で貧相なヒゲを生やした中年男性は、「まぁ別に嫌いじゃあないがね」と言いながら、制服に縫い付けられたわっぺんを指さす。

「君たち、外国人のようだね。こんな大きな犬っころ連れて観光かい? ちょっと話を聞かせてくれんかね」

 話しかけてきたのは、ラトゥア王国の警察官。彼は、ウラノフ中尉と名乗った。


 ウラノフ中尉は、観光警察のひとりで、特にこのようなイベントの際、不審者を職務質問したり、混雑の緩和のために活動しているという。

トレフル・ブランたち三人は、それぞれ入国許可証と見習い魔道士の身分証明書を提示した。もちろん合法のもので、魔道士はだいたいどの国でも好意的に受け入れられる。


 ウラノフ中尉は、人差し指でちょんちょんとあまり生え揃っていない口髭を整えつつ、三人分の書類を確認した。

「ほぅ、お嬢さんはこの国の人だったのかい。里帰りかね?」

「えぇ、そんなところですわ。久しぶりに故郷のお祭りを見て、わくわくしていましたの」

 ウラノフ中尉は気のいい笑顔を見せた。

「新年は1年に一度しか来ないんだからの。大いに楽しんだらええ。しかし、この犬っころたちね、ちょっと他の人たちが怖がっちまうんじゃないかね」

 そう言われ、顔を見合わせる三人。

 最も社交性の高いユーリが代表で返答する。

「えーと、彼らは実は犬ではなくてですね……」

「ほぅ、やはり。わしはオオカミじゃないかと思っとんだんだよ」

「あ、えーと……」

 ユーリがトレフル・ブランの脇腹をつつく。

聖獣イノケンスフェラの申請、出したんだよね?」

「書類は出したよ。でもまだ認可が下りてない。日にちが経ってないからね」

「なんだいなんだい、まさか違法な生き物を連れ歩いてるんじゃないだろうね?」

「違います!」

 いぶかしげに眉を寄せたウラノフ中尉に向かって、ユーリがぶんぶん手を振った。そして改めて身分証を見せながら、自分たちの仕事内容を説明することになる。

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