11.



 数年前。

 視界に違和感を覚えてからほんの一週間ほどで、視力のほとんどを失った。

 「輸血が遅れたことで腎機能に障害が発生しています。検査は必要ですが、おそらくはその影響が……」

 小太りな町医者の話を聞いていたのは最初の三十秒くらいまで。

 まあ、回復の見込みが無いことだけは、分かった。

 付き添いの母と執事長は帰りもずっと無言で、馬車の中には重苦しい空気が漂っていたけれど。

 当の私は、近々祖父が紹介してくれるという新しい侍女のことを考えていた。

 美人だって聞いていたから。

 目がまともなうちに、写真だけでも拝んでおけばよかったなーって。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る