12.



 「おはようございます、お嬢様」

 「んー? ん……おはよ、ぁよ、うふふふふ」

 「今朝は早くから本館の通達が来ています。昨晩、黙って勝手に帰宅されたことでフランベルジュ様がお怒りだそうで」

 「ようし、もうひと眠りしようかしら」

 「お目覚めでしたらすぐにお通ししますね」

 「急に言葉が通じなくなるのはやめなさい」

 まだ力の巡りを感じない上半身を、腕力だけで持ち上げて起こす。

 起こした身体が軋む。首の後ろから、根を張るような頭痛がせり上がってくる。肺は棘でも詰め込んだように、呼吸をするだけで痛みが走る。

 目覚める度に理解していく。

 この身体はとっくに知っている。

 この身体はとっくに死んでいる。

 痛みに満ちて、鉛が詰まったように重たくて。

 そのくせ。

 しがらみは強く手足を引いて。

 誰にも望まれていないと知って。

 進んだ先には終わりだけが待っていて。

 それでも。

 苦しみだけが命の証だと言い張って。

 痛みに縋って生きていく。

 「ねえ、イングリド」

 「はい」

 強がりを言えば、そう。

 死に場所なんて選べないのだから、

 逝き場なんていずれ誰も同じなのだから、

 借り物ではない、自分の居場所。

 そう思える場所が、今を生きていく場所でなければ嘘だろう。

 「私の左足、どこか知らない?」

 「はい。お傍にございます」

 同じ痛みを抱えたまま。

 どちらかが、ふっ、と笑った気がした。




 終。

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