3.


 

 静かな夜の森の中で。

 焚火の向こうに佇む老人が、猟銃の手入れをしているのがかすかに見える。

 自分の記憶か、それとも誰かの追憶か。

 「銃は、きわめて理性的な形をした暴力だ」

 その老人は微笑んでいる。

 火の光の揺らぎと蓄えた白髭のせいでよくは見えないが、この夢を見ている私は、それが彼の笑顔であることを知っていた。

 「抜き、構え、狙い、撃つ。動作が増えれば思考を挟む余地も増えていくものだ。撃つべきか。当てられるのか。自分は今、何のために引き金を引くのか」

 夢の中の私が何かを言い返したけれど、自分ではよく聞き取れなかった。

 老人は、ふぅ、と小さく息を吐く。

 「本能を克服するために訓練がある。生来を塗り潰すために、鍛錬がある」

 老人の言葉は溜息混じりだった。

 「私は戦場を歩いた武器商人だが、最後まで軍人ではなかった。息子にはその意味が理解出来ておらん。しかしまぁ、あれはあれで商売上手よ。安心せい」

 老人が何かを投げ込んで、焚火の勢いが音を立てて増す。

 「教えてやるとも、お前にも。銃の扱いも、火の扱いも……望むのであれば、茶の湯の楽しみ方も。ああ、食えるキノコの見分け方には自信が無いから聞くなよ」

 ぼう、と辺りの影が強くなる。

 「それと……刃物の扱いは自分で覚えてくれろ」

 顔に差した影で、その表情は見えなくなっていた。

 「刃物には理性が無い。抜いただけで、構えただけで、いとも容易く傷を付ける。相手にも自分にもな」

 見えなくなったせいで、余計にはっきりと浮かび上がるのは。

 怒り、悲しみ、どころではなく。

 「故に。だから、お前。刃物だけは、己の思う通りに振るわねば」

 焚火の炎よりも強く、はっきりと灯されていた、誰へともない怨嗟の陰。

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