第15話『トリクルダウン』
夜はさらに更け…
相変わらずアンちゃんはおっさんのような大きないびきをかき、その寝相の悪さで私はベットから落とされてしまった。
月明かり差し込むこの部屋の中、四角の光が顔面を照らすという異世界人から見たら異様な光景が広がっている。
「百姓王族、めっちゃ面白かったな…って勉強しなきゃ…」
様々な本を読み進めると、興味深い記述を見つけた。
『トリクルダウン』という現象がファッション業界にはあるらしい。
上流階級が下の階級と差別化を図るためにファッションの新たな流行を生み出す。
その上流階級に憧れる中流階級がその流行を追い、中流階級のファッションを見てさらに下の階級に…
このように下に流行が流れていくにつれ、差別化を図りたい上流階級がさらに新たな流行を生み出す、という循環だ。
現代社会の場合、『トリクルダウン』のようにトップダウンで流行が生まれることもあるが、階級に関係なく流行が発生するということもあるらしい。
しかし、今いる異世界はこの『トリクルダウン』が利用できるのではないか?
魔物の革は、定価を結構高めにしないと利益が出ない。(きちんと計算したわけではないので、後で葵さんに助けてもらおう)
原材料はタダ同然としても加工費用が3倍ほどかかるし、どこの工房でも加工してもらえるわけではないから職人さんにはきちんとした対価を出したい。
それなら頑張って販売価格を抑えようとするのではなく、高価格で希少価値を演出し、流行を作って魔物を活用するという意識改革を生み出すのはどうだろう…
難しいことをやろうとしているのは、わかってる。
でも、せっかく召喚されたのだから
この世界に私が生きた証を残したい。
———————————————————
「このランドセル、もしかして素材って…」
「そうです!オークです!」
「すごい!もうできたんだ!」
葵さんがまじまじと、様々な角度から観察する。
約1ヶ月半ぶりに王城に来た。
前は秋だったが、すっかり冬支度の季節だ。
こちらは王室、王こそが絶対であり最も神に近い存在なのでクリスマスのような行事はない。
しかし、夜が長くなる季節に彩りがないのも寂しい。
ということで、王国の財力と魔法力をアピールするという目的込みで、王城を中心に王都全てが魔法を用いて飾り付けがされ、イルミネーションのようなものを楽しむことができる。
窓から城内を眺めると、メイドや執事や魔法職の面々が木や外壁に飾り付けを行なっている。
「こういう光景をみると、あっちの世界を思い出したりするよね…」
「そうですね…でも、この景色が実現できているのは我わ…皆さんが戦いに勝利したからでもありますよ、きっと」
「ハルカちゃん、皆さんじゃなくて私たちでしょ!悲しいこと言わない!」
「…!はい!ごめんなさい」
「さてと、収益面から現実的な販売価格を考えてみましょうか!」
「はい!よろしくお願いします!」
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