第16話大人組の昔話
「となると、やっぱりランドセル一個をモデルに考えると、価格はこのくらいになりますよね…」
「そうねえ…今は見えてないけど、お店を出すなら初期費用やらランニングコストやらお金はかかってくるから…価格ってそういうものも込みで考えないとね。財源はどうするの?」
「私の『支度金』と商人ギルドから融資をお願いしようかと…」
「ふんふん…全然足りないね」
「やっぱりそうですよね……はあーやっぱり私に経営なんてできるのかな…」
「それはやってみないとわからない。でも、ハルカちゃんには発想力と行動力、それに私を含む友人にも恵まれてるでしょ?それってすごい好条件だと思うの!」
「葵さん…!」
コンコン
ノックの返事をすると、ココアちゃんが入室してきた。
「ハルカちゃん!」
「ココアちゃん!久しぶりー!」
勢いよく私に抱きついてきたココアちゃん。
王立学校の初等科の制服がとてもよく似合っている。
トップスは白のセーラー服をベースに、大きめのダークグレーの襟には二本の白いラインが入っている。
ボトムスは膝丈の深緑チェックのキュロットパンツ。
頭にはスカートと同じ柄の小さめのベレー帽を少し斜めに被っている。
「元気にしてる?身長伸びたね!何センチになったの?」
「ハルカちゃん、親戚のおばちゃんみたい!」
「こら!ココア!」
葵さんがきちんと叱ってくれた。
「おば……まあたまにしか会ってないからそういうコメントになってるのかも…」
最近は年齢より上に言われることが増えたな…そんなに歳上っぽい言動はしてないつもりなんだけどな…
「ハルカちゃんこそ、最近元気?またパーティー、クビになったんでしょ?」
「もーーなんでココアちゃんまで知ってるのー」
「ふっふふ♪ないしょ!」
やっぱり情報源のアンを潰さないといけないな…
「わ!これ、ランドセル?ヴァネッサちゃんにあげたやつじゃないよね?」
「そうそう。これ魔物の革を使ったランドセルなんだよ」
「そうなの!?なんかすごそうだね。背負ってみてもいい?」
「もちろん!」
「わー!軽い!私のランドセルも軽かったけど、それよりもっと軽いね!」
「本当に!最近のランドセルって軽量化してるけど、魔物の革って可能性ありそうだよね」
ココアちゃんはランドセルを背負ったまま部屋の中をスキップしはじめた。
制服の深緑とオークランドセルの緑色がとってもマッチしている。
「これ、すっごくいいけど、私専用のカバンあるからそれ使わないといけないんだ…」
「ココアは任務の関係で大楯を背負える形じゃないといけないから、それ専用装備になってるの」
「さすが友人兼護衛のココア様…」
「あとココア?なんかタダで貰えるみたいな言い方だったけど、友達が作ったものだからって甘えちゃダメよ?」
「はーい!」
もう完全に母と娘のような関係性だ。
召喚されてすぐの頃は、こんなふうになれるとは微塵も思えなかったな…
———————————————————
召喚されて2週間ほどが経った頃だろうか…
ここでの新生活に慣れてきたタイミングで事件は起きた。
勇者パーティーの中では、大人組と呼ばれるココアちゃん以外の4名でよく話し合いを行なっていた。
メインはお互いに得たこの世界の常識や情勢の知識交換だ。
特に聡一くんがリーダーシップを持って熱心に取り組んでいた。
「やはり、召喚されてから向こうに帰った人はいないようですね…」
「まだ諦めるのは早いでごわす!2週間だけじゃ、知らない情報のほうが多いでごわすよ!」
「そうだな…とりあえず、これまでに集めた召喚関連の情報を整理しよう」
「このマームコット王国は約半世紀ごとに勇者召喚を行なっているらしい。
いずれも王国や人間種族にとってピンチが訪れた時に、だ。
前回は49年前、王国を中心に人間種と獣人種を中心に疫病が蔓延したそうだ。
それは黒死病のようなものだったそうだが、当時の王国には魔法やポーションで治癒できる傷や毒以外の治療法や衛生観念がなかったそうなんだ。
国民の多くが命を落とし、王族メンバーにも罹患が確認され、そこで戴冠したばかりだった現国王の命により召喚が行われたわけだ」
「だから異世界の中世ヨーロッパ風の国だけど、下水や衛生観念が現代的なのね」
「トイレとか汚いのは我慢できないですよね…」
「王になったばかりの時に勇者召喚して国を救ったという前例があるから、今回の一大事にも召喚が行われたというのが僕の見解です」
「聡一は優秀でごわすな」
「そんなことないよ。色々調べたい性格なだけだよ」
聡一くんは、青い狸が出てくるアニメの “ 出来すぎている君 ” みたいなやつなんだよな…
「まあ、この話はこのくらいにして…みんなメンタルは大丈夫か?
一人で抱え込まないで、僕でもいいし、誰か相談できる人を見つけて吐き出してくれよな」
「うん…」
「アオイさん、ココアの様子はどうですか?
ココアはアオイさんに一番懐いているようなので」
この大人組の話し合いの場に沈黙が流れた。
「うん。大丈夫だと思う…」
そう返事を返したその瞳には正気が宿っていないようだった。
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