第11話愛嬌ヤクザ、現る
「は?なにいってんの。この『あたおかオバサン』」
「あた、おか…オバ『オバサン』!?」
「そう、オバサン」
「え…ちょっとまって…私まだ19なんだけど…」
「え、オバサンじゃん!」
ヴァネッサは乱れてもいない髪を耳にかけ直す、わざとらしい仕草をしながらこう言った。
「私より1秒でも先に生まれたら “ オバサン ”
私より1秒でも後に生まれたら “ クソガキ ” 」
脳みそが沸騰しそうになるほど怒りが湧いたのは19年の人生で初めてだった…
いや、こんなことで沸騰しそうなほどの怒りが湧くなんて、幸せな人生だったんじゃないか…?
「え、なに?私間違ったこと言ってる?言ってないよね?」
ニタニタと笑う、この “ クソガキ ” に
「ごらああああああ!おめえ、何言ってっんだあああああ!!!!」
今までに聞いたことがない、腹の底から煮えたぎる『怒り』が声になっていた。
「あ????礼儀がなってねーのにここまで育ったんはおめーか???
いくら王都一のデザイナー様でもよお
そんな口の聞き方していいと思ってんのかゴラァぁああ????」
任侠映画顔負けのドスの効いた声の主は、あの“愛嬌ガール"のアンちゃんだった…
「はっ!バッカじゃないの?
私仕事いっぱい来てるんで、『あたおかオバサン』と『おばかさんオバサン』に付き合ってる暇なんて、ないんですけどー?」
どこかの組のヤクザ・アンに負けていない根性は、素直にすごいと思ったハルカでした。
「いや、最近は来とらんやろ。防衛隊制服が最後やろ」
ここでサラッと突っ込めるダンディ爺さんも、なんか肝が座ってんなぁと思ったハルカでした。
「ちょっとツラ貸せやゴラァぁぁぁぁ!!!」
アンちゃんは、ヴァネッサの細い首を掴み表へ連れ出していった。
その数分のことは、何も覚えていません。
「ウチの人脈使ってこの街に居れんくするぞ!!」
とか
「こっちには王室にもコネ持ってるんやぞ」
とか
「お前みたいなヒョロっとしたクソガキなんて半日あれば…」
なーんて言葉は聞いてません。
数分後、しおしおと大人しくなったヴァネッサを後ろから小突くアンちゃんは、表情はいつも通りに戻っていた。
そのため私の記憶もここからは鮮明になっている。
「あたぉ……オバサン、ごめんなさい…」
「あ``あ``?」
「お姉さん、すいませんでした…」
「何に対して謝ってるんっスか?」
「あの、その…暴言を吐いてしまい、差別的な呼び方をしてしまい、申し訳ありませんでした…」
一呼吸おいて、にっこり愛嬌のある笑顔の本来のアンちゃんに完全に戻った。
「ん!まあヴァネッサちゃんはちゃんと反省したと思うっス!」
愛嬌ヤクザではなくなって本当に良かった…
そして完全に怒らせてはいけない人物だと初めて知った…
…あれ?お店の紹介料って本当はショバ代…そんなわけないよね…!
「そのオバ、じゃなくてお姉さんは私たちに何の用?」
「あ``あ``?」
「お姉さんは私たちに何の御用でしょうか…?」
「こちらこそ、勝手に入ってきてごめんなさい。改めて自己紹介させてください!
私はハルカ コウキです。今は冒険者(をクビになったり)しています」
「ワシはこの工房のオスカー・ハンツ。こっちはまあ知っとると思うがヴァネッサ・ロッシュ。こいつのデザインしたイメージを形にするのはだいたい任されておる。ハルカと言うたな…
おめえさん、もしかして勇者失格のハルカ様かい?」
「ま、まあそうですね…」
「おやっさん、直接的すぎっスよ!」
「それで、オバ…ハルカさんはなんで魔物なんて言い出してるわけ?」
「それはですね…一回付いて来てもらってもいいですか?」
「おおー!なんだこの空間は!!」
「へー、マジックボックスってこんなに広いんだー」
「こちらです!」
私は綺麗に整理された魔物たちを置いているエリアに案内した。
「うわっ!これ魔物!?きっも!」
「ワシもこんな近距離で魔物を見たのは初めてだな」
ヴァネッサは遠目から、オスカーは触りながら魔物の皮や肉を観察していた。
(ヴァネッサがヒールで魔物をチョンチョンと汚物を蹴るような仕草をしたので、アンちゃんがどこからかハリセンを取り出し、頭を叩いていた)
「私、この魔物たちが道端に捨てられているのをなんとかしたいと思ってて。
まず、皮や肉に解体してくれる方を探しているんです」
「ふーむ…どこ行っても断られただろ?」
「はい、そうなんです…」
「当然じゃない!だってこんなにキモいんだもん!」
「あ``あ``?」
「いや、なんか、なんていうか…その…」
「そうですよね…
でも、魔物って敵からの物理攻撃や魔力攻撃にも強くて、種類にもよりますが防水・防火性能を持つ魔物もいます。
お肉も、毒があるそうですが友人が研究してくれるので…
だから、普通なら捨てられてしまう魔物を使って、商品を作りたいと思ってるんです!」
「ふーむ…意外と面白いかもしんねーな」
「はー?おっさん、もうボケてきたんじゃない?」
「おめえさんもよく見てみ。これ、なめしたらいー革になると思うぞ?」
「………」
ヴァネッサは恐る恐る魔物をしっかりと観察し始めた。
最初は汚物を見るような目だったが、だんだん目が輝き出した。
「ねえ、おっさん。これさ、私が今やりたいカバン、作れるようになる?」
「さー…どうだろうなあ。しっかし、やってみるのも面白いかもしれんぞ」
「じゃあさっさとやって!」
可愛いような可愛くないような…
ヴァネッサの顔からは年相応の可愛らしい笑みが溢れていた。
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