第9話あの、お味噌汁
「あの…このお部屋は…?」
「ふふっ。
お部屋には流石というか、たまにしか使われないはずだが立派な台所が備え付けられている。
銅の調理器具はピカピカで、部屋の何もかもを反射している。
長机と椅子も何脚かあり、都会の一人暮らしの部屋より快適であろう。
大きな窓から月光が差し込み寂しい気分になる…
「さてと…実は、味見をしていただきたいものがありますの」
ララー公妃が鍋から液状のものをスープ皿によそう。
スープ皿をわざわざ私の元まで運んでくださった。
なんだか、とっても
懐かしい香りがした
「お味噌汁、というものを作ってみました!」
そうだ。
これはまごうことなき、味噌汁だ…
「貴重な文献にこのレシピが載っておりましてね、お味噌も…本来なら勇者様方にお出ししてはいけないのですが…」
霧のようにお味噌が踊り、お豆腐のような四角い白いものと、海藻が漂っていた。
「ぜひ、
熱すぎるスープ皿のせいで指が火傷しそうだったが、もう今の私にとってはどうでもいいことだ。
美しい白いお皿の縁に、唇を押し付け
一口、また一口、飲んでいく。
「う……っ……うっ……」
頬からしょっぱい液体が流れ、お味噌汁の味と混ざってしまう。
「…………まず、温度が高すぎます…。この温度だと……味噌の酵母が死んでしまって、お味噌汁の健康効果が少なくなります…」
「そうなのですね!文献にはそこまで書かれていなかったので、勉強になりますわ!」
「………あとは……ちょっと味が薄いかもしれません……これは好みもありますが…もう少しお味噌を溶いてもいいかもしれません…」
「お味噌って、ちょっとの差で味が変わってしまうのですよね…勉強になりますわ!」
豆腐っぽいものは硬めで木綿豆腐っぽいが、我が家では絹ごし豆腐だったし
お出汁も単調で、我が家の味ではない
海藻はよくわかんない、異世界の海藻っぽいし…
「……っ、美味しい、です……」
「良かった…美味しく作れたみたいですわね」
涙が次から次へと湧いてきて、もう止められなかった。
この世界に来て、初めて泣いたかもしれない。
周りはやるべきことを粛々とこなし、最年少のココアちゃんですら文句の一つも言っていないのに…
スキルやら、職業やら、なにもないと言われている私ごときが弱音を吐いたり、泣いたりなんてできるわけがない…
嘔吐く《えずく》ように、体を大きく震わせて汚く泣く私からそっとお皿を取り上げ、ララー公妃は抱きしめてくれた。
「ぶ、ふくが……きれい、な、ぶくが……」
「いいんですの。それに、同じようなものが何枚もありますもの」
まったく、この人は泣かせたいのか、笑わせたいのか…
———————————————————
「ん!!めっちゃ美味しいっス!この棒にくっついてるのはなんっスか?」
「それがきりたんぽでごわす!お米をすりつぶして、棒につけて焼くんでごわす!」
「お米ってこんな風にも食べられるんっスね!面白いっス!」
「……ハルちゃん、大丈夫でごわすか?口に合わなかったでごわす…?」
「…ん、あ、すっごく美味しいよ!なんかちょっと、懐かしい記憶を思い出してて…」
きりたんぽ鍋にはお味噌入ってないけど、なんか故郷の味付けを食べると思い出しちゃうんだよな…
「美味しいと言ってもらえて、安心でごわす!はやく魔物のお肉も、鍋にしたいでごわすね!」
「そうだね…!まず、解体してもらえる人を探さないといけないよね…」
「ん?解体っスか?知り合いに何人か、できそうな人いるっスよ!」
きりたんぽを頬張りながら、アンちゃんはさも当たり前かのように貴重な人脈を教えてくれる。
「さすがアンちゃん!やっぱり持つべきものは便利な友人だね!」
「嬉しいっス!
って、もっと別の言い方ないんっスか?!」
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