第8話きりたんぽと夜の散策

「できないでごわす!」





「え!!!なんで!!!!」

「よく考えると俺、魔法職で魔物切ったことないでごわすよ!」

「そ、そうだった…!!!」


剛士くんは魔法使い《ウィザード》

遠距離から魔物に攻撃したり、仲間にバフをかけたりしていた。

そのため最前線で魔物を切る、ということはしたことがないのだ。

(私もしたことはないけど)





「料理屋をしているでごわすが、ブロック肉になった状態で仕入れてるから解体は専門外でごわす!」

「そ、それもそう言われればそうかも…」


毛皮付き、頭付き、土汚れまでついている。

これを革や肉、と呼ばれる状態にまで持っていくには、職人技が必要になる…


「異世界の産業も各専門家で工程を細分化することによって、俺もお店ができてるでごわす!」

「うーん、私の考えが浅はかだったかな…」

「しかし、魔物の肉の研究はぜひともしてみたいでごわす…そっちなら任せてほしいでごわすよ!」

「わかった!お肉になったら持ってくるね!!」




「ん?なになに?なにしてるんスか?」

「アンちゃん!?」

厨房の暖簾から顔を出しているのは、オレンジの愛嬌ガールアンちゃんだった。

「ういっス!新作の味見しにきたっス!」

「アンちゃんいらっしゃい!もうすぐできるでごわす!ハルちゃんも一緒に食べて感想を教えてほしいでごわす!」




「アオイさんに聞いたっスよ!魔物を色々と活用したいんっスよね!」

「なんでさっきの話を、さも当然のように知ってるの?」

「ふっふっふーーー!秘密の情報網っスよ!」

「もーーー!みんなして私の知らないところで私の話しないでよーー!ところで、アンちゃんのお客さん?に『勇者庵』も入ってたなんて知らなかったよ〜」

「っへへー。まあタダ飯しにきたみたいなもんっスよ!」

「そんなことないでごわす!アンちゃんは味の感想も的確だし、お客さんも呼び込んでくれるから助かってるでごわす!」


剛士くんが厨房から特大サイズの鍋を運んできた。すでに鶏ガラのいい香りが漂っている。


「すっごいいい匂い…!」

「俺の古郷の郷土料理『きりたんぽ鍋』でごわす!やっと満足のいく味になったでごわす!」





———————————————————







召喚されて1ヶ月ほどが経った。


訓練 訓練 訓練 訓練 訓練………


毎日訓練しかしていないと思う。

みんなは適正職があるのでその道のエキスパートから直接指導を受けている。

私は【 職業なし 】でスキルも【 制限つき 】なので、一般兵の訓練過程を行なっている。


一人、王室の中庭にある東屋で、空を見ながらボーっとしていた。

剛士くんは夜食を食べに食堂に、葵さんとココアちゃんは一緒に寝ていて、聡一くんは調べ物をするため図書室に通っていた。

私はみんなほど疲れていないので、全く寝付けなかった。





もしかしたら肉体的に疲れていないせいで眠れないのではないかもしれない…





「お隣、よろしいでしょうか?」


夜の風に吹かれながら、シルクのナイトウェアに身を包んだララー公妃がいつの間にか目の前においでになっていた。

いつもはアップスタイルの髪型も、ザックリ編んだ三つ編みを横に軽く流したダウンスタイルになっていて、これはこれでラフな感じだがお美しい…


「ララー様!し、失礼いたしました…!」

私は急いで立ち上がり、90度の角度でお辞儀をした。

「いえいえ、わたくしが突然来たのですから、おかけになってください」

「し、失礼いたします…」


召喚された時にひどく落胆された国王に陳述してくれたララー公妃。

国王の次男のお嫁さんで、名門貴族の「美女三姉妹の長女」。

一男一女をもうけ、その長男は王位継承順位第3位…

王位継承順位第1位の国王の長男は既婚だが子供がおられないので「未来の国王の母」という愛称で国民に慕われている、らしい。


そのララー公妃が時々私たちの訓練の様子を見学されているのは知っている。

が、そこまでお会いしたことはもちろん、お話なんて恐れ多くてできはしない…



「今日は夜風が心地よいので、お散歩日和ですわね」


「そ、そうですね…………」







「雲も少なくて、月や星が綺麗に見えますわね」


「そ、そうですね……………………」







すごい気を使っていただいてるのは伝わってくる…

しかし、立場も出身も、何もかも違う相手に何を話せばいいのか…




「こちらでの生活には、もう慣れましたか?」




ララー妃が本当に聞きたかったのはこれだろう。





「……は…はい………。多分………」





喉の奥から、言葉を捻り出す。





食事は3食しっかり食べられるが、西洋っぽい料理しかない。

建物もレンガや石造りで、お城の内部の豪華すぎる内装も見慣れない。

石畳の道は歩き慣れていないので足がすぐに痛くなる。

上下水道や水回りはしっかり整備され、綺麗なのでそこは唯一安心できる。

宿舎のお風呂場には浴槽までついている。

やっぱり浴槽に浸かりたい時もある。





でも…






「……そうですか…」




「ハルカ様、わたくしについてきていただけますか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る