第7話『勇者庵』
王都一の飲み屋街にやってきたが、まだ昼過ぎなので準備中のお店ばかりだ。
石やレンガ作りの似通ったデザインの通りの中で、一際異彩を放つお店こそ剛士くんの日本料理店『勇者庵』だ。
大きな茅葺き屋根を採用した日本の伝統的な木造家屋で、大きな一枚板の看板には漢字で『勇者庵』とその下にはマームコット語で『ユウシャアン』と彫られている。
私の実家は昔ながらの日本家屋ではなかったが、このお店を見る度になぜか懐かしい気持ちになる。
「あれ、ハルちゃん?ハルちゃんでごわす!」
お店の前で足を大きく開き空気椅子状態ですり足という独特な体勢で、掃き掃除をしているこの巨漢こそ剛士くんだ。
3mmの坊主頭に、あんこが詰まっていそうなぷくぷくなほっぺ、微笑みを絶やさない優しい目という親しみやすさ満点の顔である。
紺色の作務衣を着用し、草履を履いているせいか、190cm超えの身長のせいか、石畳のこの通りでは人の視線を独り占めしている。
「剛士くん久しぶり!お店繁盛してる?」
「まあボチボチでごわす!まだ準備中だけど、寄ってって!」
「うん!お邪魔します!」
剛士くんの後に続き店内に入る。
「……なんかまたデカくなった?」
背中の大きさが前あった時より二周りほど違うような気がする。
「本当!?嬉しいでごわす!稽古も続けてるでごわすから!」
「そういえば相撲同好会は人集まってるんだっけ?……いでっ!」
剛士くんが突然立ち止まり、ぶつかってしまった。
「………競技はまだしも、格好が受け入れてもらえないでごわす…」
「ああ………仕方ないね………」
ほぼ裸に近い格好では、元勇者とはいえすぐに王都の地下施設行きだ…
「座って待ってて!お茶持ってくるでごわす!」
「はーい!」
数カ所ある囲炉裏の一つに座る。久しぶりに座布団に座ったな…
高い天井にはしっかりとした柱が何本もかけられており、火棚が各囲炉裏の上に吊るされている。外観も素敵だが、中も素敵で癒されるんだよな…。
「お待たせ!はい、どうぞ!」
「ありがとう!」
緑茶をいただき、本題にはいる。
「……なるほど。魔物が毒抜きなどして食べられるようにならないかでごわすな…」
「そう。剛士くんならできないかなーと思って」
「こちらの文献を見ても、食用として研究された形跡もないでごわすし…
道のりは長いかもしれないでごわすな…。
どんな味か全く想像できないでごわすし…
研究しても、まずかったなんて展開もありえるでごわす……でも、」
「それがそそるでごわす!」
「だよね!だよね!私もすっごく気になってるんだ!」
「とりあえず、オークでやってみるでごわす!」
「そう言ってくれると思ってた!!」
奥の厨房に移動し、小ぶりなオークをまな板の上に出す。
「さて、まずは解体からでごわすが…」
立派な包丁を構える剛士くんは職人のようだった。
しかし、包丁を握ったまま動かなくなった。
「できないでごわす!」
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