第4話勇者失格のハルカ『もったいない精神』で動き出す
ララー様と私たちは庭園にある東屋でお茶をご一緒していた。
茶器は縁が金で飾られ、とても高そうだ(語彙力)。
庭園では少し離れたところで専属庭師が仕事をしている。
季節の花が咲き乱れ、日当たりも良く、心地よい風が吹き花の甘い香りでとっても素敵な空間だ。
こういう体験をすると、やっぱり王室の権力は絶大だなと感じる。
「ところでハルカ様、またパーティーをやめさせられたんですって?」
「ぶーーーーーーーーーっ」
せっかくの紅茶を吹き出してしまった。
「なんで、ララー様がご存じなんですか!!」
「ふふふ、私わたくしの情報網を侮ってはいけませんよ?」
「私のプライバシーはいったいどこにあるんですかね…」
「皆様、ハルカ様のことを気にかけているということですよ」
嬉しいような、嬉しくないような…複雑な気持ちになる。
戦後、私以外の4名はそれぞれしっかりとした道に進んでいる。
葵さんはお城の経理でココアちゃんの母親代わり。
ココアちゃんは初等部に通いながら、王様のお孫様のご友人兼警護。
聡一くんは日本に戻る方法を探る旅に出ている。
剛士くんは王都内で日本食レストランの経営を始め、大繁盛している。
勇者として認められなかった私は、その後も自分のできること、やるべきことを見出せずにいる。
「そういえば、これをお返ししようと思って…」
ララー様がメイドに視線で合図を送る。
白黒でスカート丈が長い、古き良きメイド服に身を包んだ少女がワゴンを引いてきた。
そこに乗っていたのは私が召喚された時に身につけていたカバンや学校の制服だった。
「あ、私の…」
「返却が遅くなってしまい、大変申し訳ございません…私わたくしも城からなかなか離れることができなくて…」
「とんでもないです。ララー様、ありがとうございます!」
召喚された勇者たちにはすぐに新しい服や日用品が支給され、私物は全て没収される。
今回の召喚は若者ばかりだったため、未練を残したまま異世界で全く新しい生活をするというのはとても精神的な負担になる。
今までの記憶を極力呼び起こさないための配慮でもあり、王国側の勇者の精神的支配という思惑もある。
久しぶりにカバンの中を見てみると、当時の教科書や大学受験対策のオリジナルノートも入っていた。
「懐かしいな…そっか、私って受験生だったんだよな…」
「わ!この教科書、私も使ってた!見てもいい?」
「どうぞ!」
「私わたくしも拝見してよろしいですか?」
「どうぞどうぞ!」
葵さんは日本史B、ララー様は地理の教科書を手に取り、パラパラとめくり始めた。
「これが日本語なのですね…紙の品質も素晴らしいですし、印刷技術も素晴らしいですわね…」
「懐かしい〜、私も受験の時は必死で覚えたのにもう忘れてるよ〜!」
「日本語と話す言葉は一緒なのに、文字が違うとは知っていましたが実際に目にすると、本当に全く違うのですわね!」
「日本語は向こうの言語の中でも文字種が多いから、学ぶのは難しいって言われてましたね!」
「……私わたくし日本語、学びたいですわ!アオイ様、私わたくしの日本語の先生になってくださいませんか?」
「え、本気ですか?」
「本気も本気ですわ!なんせ、私わたくしたち王族や貴族の人間は言語学習にも重きをおいております。
他国の要人との外交の席や晩餐会でお話しできなければいけませんもの。
なにより、私わたくしは言語学習が大好きなのです…!
話し言葉が同じならあとは文字だけですわ!アオイ様、何卒お願いいたします!」
「うーん…そこまで言われると断れませんね…。わかりました!お引き受けします!」
「感謝いたしますわ!」
二人がワイワイしている間、私は大学受験用のノートを見ていた。
高校の評定が良かった私は先生の勧めもあり、指定校推薦で大学を受験する予定だった。その大学では面接と小論文があったので、対策を始めていた。
経済格差、グローバル化、環境問題 etc…
「そうだった……私、大学に行きたかったんだった…大学で勉強して、バイトして、自分のお金で好きなものを買う……そんなことをしたかったんだ………」
異世界召喚や戦争などのゴタゴタですっかり忘れていた
私が本当にしたかったこと…
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「だって、だって…
『もったいない』じゃないですか!!!」
———————————————————
東屋の中で縦に伸びた光の輪っかを出現させる。
それは私のアイテムボックスの入り口だ。
中に積まれた数々の魔物の亡骸。
「私、これを利用して、何か始めます!!!」
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