第2話マジックボックス預金
「ハルカちゃん、あんまり何回も言いたくないっスけど…」
「……はい…」
「なんでこんなにすぐ散らかしちゃうんスか!!!」
「ごめんなさい!!!」
魔物の残骸の山を、私はいつも通りアンちゃんに怒られながら片付ける。
「もう、ウチらから見たらただのゴミっすよ!なんで集めちゃうんスかね?」
「いやあ、きっとそのうち何かに使えるよ!」
「『もったいない精神』というより、ただの捨てられない人っスよ…」
アンちゃんに助けてもらいながら、残骸を種類別に分類して管理する。最初は恐ろしくて直視できなかった魔物たちだが、もう慣れたものだ。大きくて重い魔物たちも引っ張れるほどの筋力もついた。
微妙なマジックボックスのスキルだが、今まで出会った異世界人の中で一番美しい、ララー妃のおっしゃった通り段々と収納できる量が増えていった。今ではドームほどの大きさになった。
片づけていたら、の話だが…
「ふー…、とりあえずこんなもんっスかね!休憩してもいいっスよ!」
「はい…ありがとうございます…」
少し前に、アイテムボックスの隅に私室のような場所をアンちゃんが整えてくれた。ビールも奢ったが労いの気持ちを込め、街の雑貨屋で購入したハーブティーを入れる。このハーブティーは袋を開けた瞬間から安らぐ香りを放っているが、お湯を入れ一口飲むだけで身体の芯からリラックスできる。
「あ、この香り!ウチが勧めたお茶っスね!」
「そうそう!あれからすっかり、あの雑貨屋さんのリピーターだよ」
「あそこで売ってるポプリとか石鹸とかもすっごくいい香りっスよ!おんなじ人が作ってるらしいっス!」
「そうなんだ!今度行った時に絶対買うね」
「うっス!」
「………ところで、また冒険者パーティーに入るんスか?」
「う………」
せっかくハーブディーでリラックスしているというのに、現実を突きつけられる。
「ハルカちゃんは国からの支度金もたんまりあるんスから、少しは遊んでもいいとウチは思うんス!」
「うーん、そうなんだけどね……」
私はマジックボックスの、また別の隅に無造作に置かれている大量の金貨を見た。
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「これより、マームコット王国勲章を授与する!」
時間は少し戻って、王室の大広間にて。
声の通る、左右に伸びた白い髭のおじさんを私は隅っこの席から眺める。
4名の勇者が素晴らしい正装で、国王の前に跪いている。
私の席は彼らの隣ではない。
「先の大戦で大いに活躍し、王国と連合軍を勝利に導いた勇者、ソウイチ・タカハシ!」
「っは!」
国王が彼の前に立ち、隣にいる召喚時にいた聖職者の女性からメダルを受け取り彼の首にかける。以下それが3名続く。
彼らは私と一緒に訓練を重ね、連合軍に合流したが私の【 制限付き 】スキルと空欄の職業欄では最前線で魔王と戦うことはできなかった。
国王が望んだ勇者像ではなかったし、国王が望んだ活躍もできなかったわけだ。
彼らは勲章とともに莫大な報奨金を得た。私は「支度金」という名目で、彼らよりは少ない金貨を貰った。少ないと言っても相当額ではある。国王はなんだかんだ言っても暴君ではないのかもしれない、と元女子高校生の私は思った。
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その金貨は使わずにマジックボックス内に放置されている。
タンス預金ならぬマジックボックス預金というわけだ。
「この金貨の額なら、郊外の一軒家なんか簡単に買えるっスよ!」
「うーん、そうかもしれないけど……なんか今使うものじゃないような気がするんだよね。もっと大事な、目的を持って使うものなのかなって…あとお金使うのもったいないし…」
「一生貯金して遺産だけが残るタイプっスか?」
「おい!ひどいぞ!!……あ!それより、私に合いそうな仕事紹介してよ!アンちゃんの得意分野じゃん!」
「ないっス!!!」
「は!?え、即答?どういうこと?」
「うーん、いつもならこうビジョンが浮かぶんすけど…ハルカは既存の枠に当てはまらないって感じっス」
「はあ……」
「まだステータスの職業、空欄なんっスよね?」
「たぶん…勇者なら表示されるのに、私だけずっと空欄なんだよね…
しばらく確認してなかったし、明日行ってくる」
「それがいいっス!」
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