異世界で『もったいない精神』のハイブランドを立ち上げます!

@grapetaste

第1話『お荷物な荷物運び』召喚される



「おい、お荷物!この始末したオーク入れといてくれ!」


「はーい!」



私の名前はお荷物…ではなく、広樹《こうき》 はるか19歳。



なぜか異世界召喚されてしまった元女子高生だ。



「おい、お荷物!

いつも言ってるけど、オークはギルド提出用の右耳と、ポーションの材料になる心臓だけでいいって!

なんで全部入れるんだよ!!」





「だって、だって…




『もったいない』じゃないですか!!!」





「…その、モッタイナイ?はよくわからんが、お前の唯一の特殊スキルの「マジックボックス」は【 制限付き 】なんだから、必要なものだけ入れろって!」


「わかってますけど、もったいないじゃないですか!

いつか、何かに使えるかもしれないのに…!」


「そんな時は一生こねえって!」


「リーダー、もうハルカのことはほっときましょうよ。」


「…とりあえず、昼飯食うぞ」





———————————————————




「っぷっはーーーーーー!!!!うまい!!!!」

「ハルカちゃん、お疲れ様っス!」

「はーーー。こうして日々のストレスを癒してくれるオアシスは、アンちゃんだけだよ…」

この異世界では18歳からお酒が飲めるため、こうして毎日晩酌をしている。



「で、またパーティー首になったんスか?」

「うん、これで13個目………でもさ、もったいないよね?」

「出ました!『もったいない精神』!!」

「だって、モンスターの右耳と、ポーションの材料だけ取って残りはその場に放置って」

「ハルカちゃんに言われるまで全然考えなかったっス。やっぱり異世界人だと考え方が違って面白いッスね!!」

「そ、そうかな…」


照れを隠すようにもう一口お酒を飲む。

こちらに召喚されてから初めての友人となったアンは、誰にでも好かれるという特殊能力とでも言える性格の持ち主だ。オレンジ色の外側がハネているボブヘアーに、エメラルドグリーンの瞳を持つ。これが地毛で天然の瞳なのだから、異世界にいることをより実感する。


一方の私は、召喚時から伸びた黒いストレートの髪をポニーテールにし、前髪はこだわっているので目の上でぱっつんになるよう自分で切っている。まあ見た目は普通の元女子高生だ。



「あ、アンちゃん!ヒック!」

お酒の飲み過ぎで顔を真っ赤にしているおっさん冒険者が話しかけてきた。

「マーティーさん!この間紹介したお店、どうでした?」

「いやあ、めちゃめちゃよかったよ!でも、どうして俺がお尻派だって、わかったんだい?ヒック!」

「うーん…勘っスね!」

「すごいねえ!また今からお店行くんだ!ヒック!」

「楽しんできてくださいっス!」


「…今の人知り合い?」

「うーん、知り合いの定義にもよるっすけど、まあお客さんって感じっスかね!」

「あれアンちゃんって、家事手伝いという名のニートとかじゃないの?」


「ハルカちゃん、ひどいっス!アタシはその人に合いそうなお店とかサービスがなんとなくわかるんスよ!だから、ピッタリのお店を紹介して、アタシはお店から紹介料をもらうってワケっス!大抵の人はリピーターになるんで、お店もウィンウィンってワケっス!」

「へー…やっぱりアンちゃんってすごいね」

「そうっスか?まあ、そういうお店だけじゃなくて、飲食店とか幅広くいいものを紹介できまスよ!」

「たしかに、アンちゃんに連れてってもらうお店ってどこも美味しい…」

「でしょ?ハルカちゃんは豪華な大皿料理より、チマチマしたツマミとお酒が好きそうだからそういうお店をピックアップしてるっス!」

「チマチマってうるさいよ!」

「へへっ」

ウインクしてとぼけるアン。

愛嬌、とでもいうのか。

アンのような人に好かれる能力が私にもあったらいいなとたまに思う。


「それはそうとして、そろそろ倉庫がいっぱいなんだよね…」

「またっスか!?どうせ整理整頓できてないからっスよ!」

「アンちゃん!お願い!助けて!!」

「仕方ないっスね…じゃあ、一杯奢ってください!」

「もちろん!!」






———————————————————







召喚されたのは王城の地下施設だった。

足元には青白く複雑な形をした魔法陣が光っていた。

やけに高い天井から太陽のような光が降り注いでいるが、本物ではないだろう。




「国王様、召喚の儀は成功です!!!」

「おお…よくぞ召喚に応じてくれた勇者たちよ!」


燦然と輝く王冠を冠り、少しお腹の出た王様らしき人物は椅子から立ち上がり、両手を大きく広げ歓迎している。その隣には目元を布で隠し、大きな鉱物を持った聖職者のような女性が口元に笑みを浮かべていた。私たちの周りには貴族と思わしき身なりの人たちと、聖職者と同じような服を着た神官たちが囲んでいた。



「なんだ、ここ…?」

頭の良さそうな黒縁メガネをかけたブレザーをきっちりと着こなした男子高校生が、頭を痛そうに抑えながら状況を確認していた。



「ここは…なんでごわす!稽古に行く途中だったのでごわすが…」

身長が190cmほどで恰幅もいい学ランを着た、こちらも男子高校生らしき人物が部活の荷物だろうか、大きな風呂敷を背負ったまま立ち尽くしていた。


「どう、いうこと…?もしかして…異世界、召喚…?」

清楚系なファッションに身を包み、かっちりとしたレザーのトートバックを肩に掛け、タブレットを持っている女性は状況を把握しようと辺りを見回していた。


「…………」

黄色い帽子をきっちりとかぶり、と赤いランドセルを背負った明らかに小学校低学年の女の子は、清楚系の女性のマーメイドスカートをぎゅっと握りながら不安を押し殺しているようだった。






「皆様は、我がマームコット王国の勇者として、日本国より召喚されました。これから、鍛錬を積み、魔王軍と交戦中の部隊に合流していただく予定です」


聖職者は、台本を読み上げているかのように説明をした。


「ちょっと、待ってください。いきなり召喚?されて、他国のために魔王と戦えなんて僕はそんなこと望んでいません。速やかに日本に帰してください」










「今は無理です」









                                                                                                                          

「そんな…!」

清楚系な女性が肩にかけていたカバンを落とした。


聖職者は笑みを一切崩さず答えていた。まるで何度もこのやりとりを重ね、感情を捨て去っているようだった。

「まず皆様の魔力適正と…」


「そんな、帰れないとか言われたのに、あなた方の言いなりになれなんておかしいでしょう!」



「うるさい!!!!!!!」



淡々と進められる話を黒縁メガネくんが遮ろうとしたが、失敗に終わった。声を荒げる聖職者が貼り付けていた笑みはもうどこかに行ってしまった。



「そんなにグダグダ文句を言うなら投獄しますよ…」


「まあまあ、そんなにカッカしないでくれ。勇者たちはこの状況に戸惑っているんじゃよ」

「国王様、失礼いたしました」

「ああ、君は名前をなんと言うのかね」

高橋たかはし聡一そういちです」

「ソウイチ君、君たちが抱く心配や疑問は後で必ず払拭すると約束しよう。今は我々の力になってほしいのじゃ。わしとて、そこの小さい女の子まで牢屋に入れるのは心が痛む…」


みながランドセルに背負われている女の子を見る。その子の握ったスカートには先ほどより深いシワが刻まれていた。


「…わかりました」



「さあ、それでは皆様の魔力適正と職業、特殊スキルを調べましょう!」





高橋 聡一くんは魔法職かと思いきやゴリゴリ肉体派の剣士。

そして高校生力士くんならぬ、松本まつもと 剛士たけしくんは魔性職。

最年長・20歳女子大生、名取川なとりがわ あおいさんは猛獣使い。

最年少・7歳の小学生、ココアちゃんはなんと大盾使いだった。





「それで、あなた様は…」


広樹こうき はるかです」


「ハルカ様!それでは鑑定させて頂きますね」



魔法の青白い光が輪っかとなり、頭から爪先まで通過していった。

人間ドックでCTを受ける時のような緊張感があった。(受けたことないけど)



「…属性は土のみですね。


特殊スキルは…


「マジックボックス」!」


「素晴らしい!」

周りにいる神官たちが喜びと安堵の声をあげる。


国王様もお喜びのようで、拍手をしてくださった。




「…お待ちください!




【 制限付き 】と書いてあります…!!」




「なんじゃと!」


お喜びだった国王様も思わず顔をしかめる。





「…へ?」


召喚された端から失望されているようだが、

どこのなにが悪いのか全くわからない私は蚊帳の外だ。




「しかも職業が空欄です…」




「多大な労力を費やして、その結果がコレか!」


王様は椅子になだれこみ、既に深く刻み込まれている眉間の皺をさらに深めた。

「次の召喚まで何十年もかかるんじゃぞ!魔王軍は勢力を強めているというときに、悠長に待つことはできんのじゃ!!!即戦力にならんではないか!!!」

先ほどまでの歓迎ムードはすっかりお通夜になってしまった。




「国王様、お待ちください」


私たちの間に入ってきた女性は、現在出会った異世界人の中で一番美しかった。(まあ召喚されたばかりなのだが)

艶めくパールピンクの髪をアップスタイルにし、頭上には小さめのティアラが輝いていた。薄く化粧をし、綺麗なドレスを纏い、姿勢が常に美しく『上品』という単語が擬人化したかのような品性と知性を感じさせるお姿だった。


「たしかにこの者は、王国と連合軍の即戦力にはならないかもしれません。スキルも、戦闘向きのものではありません。」

間に入ってくれたからもう少し擁護してくれると思ったのだが、一言一言がグサグサと突き刺さる…



「しかし、異世界より召喚されし勇者は皆、スキルや魔力の成長能力が高いことは既にご承知かと存じます。今は使い物にならないように感じる能力でも、【 制限つき 】でも、召喚されたからには、いずれ国のお役に立つかと…!」


「うむ…そなたの言うことも一理あるな…」

国王は立派な椅子に座り直し、威厳ある姿に戻った。

「出過ぎた真似をいたしました。どうか、お許しください」

「よい。そなたはいつも冷静で、ワシも助かっておるぞ」

「有難きお言葉」




彼女のおかげで首の皮一枚繋がった私は、勇者一行の「お荷物な荷物運び」として役割を果たすことになった。



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