第7話:情報整理
「オメガに出会った」
自分達の生存がバレないように潜んでいた、隠れ家に戻った茜は開口一番にそう告げる。
「な! オメガと戦闘したでござるか!?」
「ううん、戦ってはないけど……オメガらしき男の人と、銀髪の女の子と会ったんだ」
「オメガさんは分かるとして、銀髪の女の子とは?」
心配そうに茜の顔を覗き込む
そして、冷静にもたらされた情報を吟味する
そんな仲間の姿を見て、茜はやっと一息つく。
「ええっと、銀髪でツインテール。お月様みたいにまん丸の黄色の瞳で、背が高い子だったかな。それと……多分風を操れる」
「見た目はごまかせるので置いておくとして……風ですか」
桜花がタブレットを操り、何かしらの資料を次々に開いていく。
それは今までの現れた怪人についてまとめられたもので、極秘の資料である。
「ありましたわ、怪人デスウィンド。風と銃を操る、最近現れた怪人です」
「デスウィンド……」
「死の風とは、また物騒でござるな」
3人が仲良く覗き込んだタブレットには1人の怪人が写っていた。
仮面で顔は隠れているが、身に纏う白い魔法使いのようなローブにたなびく銀の髪。
そして、その手には2丁拳銃が握られている。
「……見た目は似ているけど、雰囲気は全然違うかなぁ」
「雰囲気?」
「うん。なんというか、素直な子供みたいにぽわぽわした感じで、犬みたいだった」
「茜さんを油断させるために、演じていたのでは?」
「かなぁ……」
手を握られた時に感じた感覚は、寒気のするものだった。
しかし、迷子の犬の飼い主を探した時の笑顔までは嘘だとは思えない。
そんな複雑そうな表情を見せる茜に葵が疑問を投げかける。
「何か攻撃を受けたのでござるか?」
「あの子はおまじないって言ってたけど、何だか変な風が吹いて来たから。まあ、そこでオメガがその子を止めてくれたんだけど」
「風を扱うのはデスウィンドの特徴と合いますね。それにしても、オメガさんはまた私達に手を貸して……正直、あちらでの彼の立場がとても不安なのですが」
次に議題に上がったのはオメガの事。
彼女達の視点からでは、オメガは研究所の崩壊の際に自分達を助けてくれた恩人。
そして、今回も危険から遠ざけてくれた人。
「……今回の件で、私達をワザと見逃したことがバレる可能性が高い」
「確かに。前回と今回で二度も助けたのなら、偶然とは思われますまい」
「はい。彼の身に何かあるかもしれません」
そんな人が自分達を助けたことで、窮地に立たされるかもしれない。
洗脳されるかもしれない。拷問されるかもしれない。
そう思うだけで、思わず身震いがしてくる。
まあ、オメガの認識では助けたのではなく、何とか逃げ出したという認識なのだが。
「どうせ、私達の生存がバレたんなら……うん、作戦を変更しよう」
目を閉じ、静かに考えを纏めていた茜がパンと小気味よく手を叩く。
覚悟を決めた顔だ。桜花はこれから起こることを想像して、思わず顔を引きつらせる。
「作戦変更でござるか?」
「うん。どうせ、生きてるのがバレたんだから、もう隠れる必要は無い。真正面から突撃しよう」
「やっぱり……」
策がバレたのなら仕方ない。正面からぶん殴る。
そう宣言した茜に、桜花はため息をつき、葵は歓声を上げる。
「おお! 突撃でござるな! 一番槍はそれがしにお任せを。して、出陣はいつ?」
「え、もちろん、今からだけど?」
「い、今からでござるか?」
が、真顔で告げられた、今すぐという言葉には流石に目を見開く。
「完全な奇襲にはならないけど、相手だってまさか見つけたその日に来るとは思わないでしょ?」
「それはそうですが、そもそも相手がどこにいるかも分からないのにどうやって」
「あ、言ってなかった。実はオメガに探知機をつけてたんだ」
「は?」
衝撃の内容に、桜花は思わず早く言えよと茜の頭をはたきたくなったが、グッと我慢する。
由緒正しきお嬢様は、アンガーマネジメントも一流なのだ。
「握手をしたんだけど、その時にコソっとね」
「茜殿がそれがしよりも忍びをしておられる……」
お前、本当に一般家庭出身か? と、葵が見つめるが茜は自慢気な笑みを浮かべるだけだ。
「しかし、探知機など、すぐにバレるのでは?」
「普通の敵ならね。でも、戦うことを拒絶しているオメガなら」
「……気づいて、私達の手引きをしてくれるかもしれないと?」
「うん。現に探知機の反応はまだ途切れてないしね」
今までこちらを助けてくれた(勘違い)オメガだ。
今回も、気づいた上で誘導してくれている可能性が高い。
まあ、実際は全く気付くことなく呑気に帰っているだけだが。
「じゃあ、そういうことだから―――5分で準備して行くよ」
こうして、正義の味方の殴り込みが決定したのだった。
(さて、いい加減にこの世界の情報整理をするか)
俺は与えられた個室でベッドの上で寝転びながら、思考をまとめる。
紙にでも書いた方がいいと言われるかもしれないが、原作知識なんて爆弾を形として残すわけにはいかない。
そもそも、俺は怪人という名の兵器だ。
一応は味方である悪の組織でも監視されていてもおかしくはない。
というか、実際に監視されていた。
帰ってから気づいたが、俺の服には
(正直、すぐにでも壊したいが、俺が監視されていることに気づいたと思われるのは不味い。下手に相手を警戒させかねない。ここは、気づかないふりをしていざという時に破壊するべきだ)
監視の存在に気づいたとしても、すぐにそれを指摘してはいけない。
前世で見たデス〇ートの主人公のように、あくまでも気づいていない体で振舞うのだ。
(流石に悪の組織でも、頭の中で何を考えているかまでは分からないだろう。ベッドに寝転がって目を瞑っていれば、ただ単に眠っていると思われるはずだ)
故に、俺はベッドで眠るフリをする。
そして、『美少女戦隊ビューティーレンジャー』の設定を可能な限り思い出す。
(まずは、主人公はレッドの赤井茜。ブルーは青峰葵。イエローは黄瀬桜花。全員、色にそった名字で、名前は花の名前がついている。その法則から行くと、白樺白蓮はあれだな。敵だった子が仲間になる王道展開のやつだ。好感度を稼いでおいた方が良い)
白蓮のあの天真爛漫な姿は悪の組織に似合わないと思ったが、追加戦士になるのなら納得だ。
多分、あの子にも何か重いバックストーリーとかがあるんだろう。
まあ、テレビで流れているのをチラッと見ただけの俺には分からないが。
こんなことなら、毎週テレビの前にかじりついて見ておけばよかった。
(ビューティーレンジャーと悪の組織デビルズイースターの戦い。悪の組織の目的は定番の世界征服。ただ、ボスの様子から見て裏の理由もありそうだが、そこは保留で良いだろう。訳ありの敵っぽいが、どうせ目的は叶わない。ほっといても、間一髪のところで主人公達が止めるだろう)
逆ばりの作品以外で、悪の組織が目的を達成するはずがない。
何となく匂う死人の蘇生みたいな願いも、創作物で叶ってるところを見たことがない。
まあ、俺の存在そのものが死者蘇生じみてはいるのだが。
(要は、戦隊ものを美少女でやりましたってだけの作品のはず。王道展開なら、主人公の近くに居ればピンチになっても助かるはずだ。いや、主人公の成長の一環として犠牲になる可能性もあるか? そう考えると海外にでも行って完全に離れるのが良いか? まあ、そこは今考えても仕方がない。今重要なのは、どうやって爆弾を除去して、良い感じに悪の組織を抜けるかだ)
取りあえず、再度の方針転換で悪の組織を抜けるのは確定だ。
主人公達が死んだと思っていたが、生きているのなら話は別である。
あの、不死身の主人公補正を考えれば、悪の組織の勝ち目は0だ。
ついでに、今までの俺の所業を考えると素直に投降するのも怖い。
土下座して靴でも舐めたら、許してもらえるだろうか?
(そう言えば、ドクター・ゲスと黄瀬桜花の会話でおじい様がドクター・ゲスの元同僚っぽいことを言ってたな。この手のキャラは大体、同等の能力を持っているものだし、その人に爆弾を除去をしてもらうのがいいかもな。ドクター・ゲスはどうせヘイトを溜めて主人公にやられるだけのキャラだろうし)
海外に行けば、悪の組織も正義の味方も気にする必要は無い。
だが、無一文で海外でやっていける程俺はバイタリティーに溢れてはいない。
やはり、一度どこかの庇護を受けるのは一番だ。出来れば、信頼できる組織で。
(自爆させられずに、なおかつ主人公達の怒りを買わずに投降する方法がないものか……)
俺は悪の組織にとっての、虎の子だ。
ボスとの関係性を抜きにしても、物語の終盤には確実に戦うだろう。
(ドクター・ゲスが先にやられてくれれば、おそらくボスは家族である俺を自爆させられないだろう。だが、都合よくドクター・ゲスが死ぬまで戦わずにすむか……いっそ、自爆させられる前に死んだフリでもしてみるか? 戦いに敗れると同時に崖の下に落ちるとかして)
負けたら絶対に自爆させられると思っていたが、よくよく考えると主人公達を巻き込めない死に方(偽装)をすればわざわざ自爆させないのでは?
まあ、八つ当たりでも死体を爆破されそうなのが、ドクター・ゲスの怖いところだが。
というか、怪人って負けたら毎回爆発しているイメージがあるので、オート自爆かもしれない。
(やはり、自爆がネックすぎる。まあ、だからこそ脅しになるんだろうが)
色々と考えてみるが答えは出ない。
どうやらドクター・ゲスが死ぬまでは、戦うしかなさそうだ。
(最優先事項はドクター・ゲスの排除。後は、戦うことを考えれば戦闘訓練も少しはしておく必要があるな。それ以外は、まあボチボチ考えよう)
同じ組織なんだ。背中をつく瞬間は少なくはないはずだ。
そう、考えをまとめて、俺は狸寝入りを辞めて本格的に寝ようと寝返りを打つ。
主人公だって上手いこと巻いたんだ、すぐに危険が訪れることは――
「起きて! オメガっち! ビューティーレンジャーがここに攻め込んできたみたい!!」
―――あった。
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