第2話:勘違い
ビューティーレッドこと、
敵は幾人もの邪悪な怪人を生み出して来たドクター・ゲスが、奥の手として出して来た存在。
怪神オメガ。今までの怪人とは一線を画す強さなのは、まず間違いがないだろう。
「………動かない?」
だというのに、オメガは動かない。
まるで、何かに葛藤しているかのように。
「もしかして……戦いたくないの?」
(やべぇよ、やべぇよ……戦わないと自爆させられる。でも、ビューティーレンジャーを倒したらもう無害な被害者アピール出来ねぇし、勝ったら悪の組織の大勝利エンドじゃん。いっそ、傷つけず気絶させるか? 首トンとかしてさ……いや、そもそもどうやるんだよ、首トンって。確か現実にやるとかなり危険だった気がする)
オメガの内心は確かに葛藤していたし、実際に戦いたくないが、理由は自己保身である。
だが、そんな内心など分からないレッドからすれば。
「許せない……戦いを嫌う優しい人を、爆弾をつけて無理矢理怪人にするなんて…!」
「何を言う。この儂が
生来の優しさから彼女達と戦うのを戸惑う人間に見える。
まあ、全くの勘違いなのだが。
「……機械ベースでない人体ベースの怪人は、基本的には人間であった頃の記憶を忘れて、戦いの兵器になる。だというのに、戦いを戸惑うのは、その方の生まれ持っての優しさにほかありません。それをあなたという方は…ッ」
(え? 記憶無くなるの? じゃあ、俺って
そして、明かされた更なる真実にオメガの内心はさらに混乱する。
心優しい者なら、憑依してしまった体を返そうとしたり、罪悪感を抱くかもしれないが、オメガにそんな心はない。自分が死ぬ可能性があるなら、全力で拒否する。
むしろ、自分の方が被害者だとさえ思っている。
「何をしておる、オメガ! 命が惜しければ儂をここから逃がすために、ビューティーレンジャーを始末せんか!! でなければ、ビューティーレンジャー諸共爆発させるぞ!」
「無辜の民の命を弄ぶその所業……万死に値する! それがしの刀の錆びにしてくれる!」
(この糞ジジイ、好き勝手言いやがって……だが、確かに俺はこんな所で死にたくはない。例え、ビューティーレンジャーと敵対することになったとしても)
そして、その被害者意識が彼に戦いの決意を与える。
要するにだ。
(俺は脅されて仕方なくやった! これなら、裁判でも無罪と言わなくても減刑されるはずだ!)
俺は悪くねぇ、悪いのは全部ドクター・ゲスだと開きなおったのである。
「……すまない、ビューティーレンジャー」
と、言ってもやっぱり完全に敵対するのは怖いので命乞いは忘れない。
あくまでも、自分は脅された哀れな被害者アピールは欠かせない。
「俺は本当は……誰も傷つけたくないんだ」
だって、刑務所に行きたくないし、前科があると就職に響くし。
そんな汚い内心を隠しつつ、オメガは1歩前に踏み出す。
「ふーむ、不完全な起動のせいか精神プログラムが不完全になっておるのか? 機械ベースの怪人と違って、強すぎる肉体ベースが邪魔をしておるのか? 何にせよ、怪人の本分である破壊を楽しめんとはつまらん……後でボスに許可を取って再調整せんとな」
「人の命をなんだと…!?」
近づいてくるオメガに武器を構えるビューティーレンジャー達だが、その目には迷いがある。
当然だろう、彼女達は正義の味方だ。
無理やり操られている敵に本気で敵意を向けられるわけがない。
(お? いい感じに同情してくれてるな。よし、ここで倍プッシュだ!)
まあ、実際の心を知ったら割と本気で叩きのめされそうだが。
「すまない。でも……それでも…俺は…俺は―――死にたくないんだ」
彼女達の優しい心を最大限に利用するように、死にたくないアピール。
ここまで言われたら、特に優しくない人でも殺すのを戸惑うだろう。
オメガ? 自分の命と天秤にかけたら平気で見捨てます。
「…ッ! 大丈夫です。わたくし達が必ずあなたを救ってみせます!」
「うん……君は私達が守ってあげる。そんなゲスの言いなりになる必要は無い」
「ご安心なされよ。それがし達は日ノ本の平和を守るビューティーレンジャー。この国の民の命を見捨てるなどありはせぬ」
(よし来た! 生存確定演出! これで、この戦闘で俺が殺される確率は0になった!)
ビューティーレンジャー達の悲壮な決意を前に内心はこれである。
普通にボコボコにされて捕まればいいのに。
(さて、後は自爆の可能性を無くすために、適度にビューティーレンジャーに勝たないといけないな…………戦闘のプロ相手にド素人の俺が?
しかし、有頂天だった内心もこれからすべきことを考えると、すぐに冷める。
いくら怪人の身体に転生したといっても、魂は現代日本の一般人だ。
喧嘩の経験すらほとんどないのだ。
炎だの、水だの、雷だのを纏う武器を持つビューティーレンジャーの姿を見ただけで足がすくむ。
だが、そんなオメガの内心など知らずに、ドクター・ゲスは高らかに嗤う。
「クックック、救うじゃと? バカバカしいわ。貴様らはオメガの性能の前には無力じゃ! さあ、オメガよ。冥途の土産に貴様の力『
「『
(え? 『
内心でそう思うが、今更聞けるような状況ではない。
つまり、ぶっつけ本番でなんか良く分からない能力を、発動させなければならなくなったのだ。
(くっ!? ゲス野郎の期待の目はどうでもいいが、ビューティーレンジャーの警戒した目が辛い。こう、なんか純粋な子供に期待の目を向けられているような気分になる…!)
本人は発動のやり方なんて知らないのに、何か来ると構えるビューティーレンジャー達。
しかし、転生一般人にそんな超能力的な感覚などあるわけがない。
簡単に言うと、いきなり鳥に転生させられてすぐに飛べと言われているようなものである。
実際に飛べるのだろうが、飛んだことのない人間がいきなり飛び方が分かるわけがない。
「どうした、オメガ。早く発動しろ! それとも……自爆させられたいのか?」
「…! 私達のことは気にしないで、オメガ! 必ず何とかして君を救ってみせるから!」
(いや、発動の仕方が分からないんですけど……)
そんな無茶ぶりをされて固まるオメガに、最後の良心が抗っているのかと勘違いした周りが声をかけて来る。それが、オメガの焦りを加速させる。
この男、どこぞの虎になった男ばりに臆病な自尊心と尊大な羞恥心だけはご立派にある。
出来ないのかと失望されるのが嫌なのだ。
だから、本来なら全力で最後の良心が抗っている風に方面に舵を切るのだが。
「……仕方ない、ボスには儂から報告しよう。オメガは廃棄した方がいいと」
「ま、待て! ……使う、『
「ふん、儂の言うとおりにさっさと使えばいいのだ」
今回は使わないと、自爆させられるので必死に使う方向で頭を回すしかない。
(どうする、どうする? 多分、俺の周りを漂ってる黒いオーラみたいなのが関係しているんだろうが……取りあえず、やるしかない。なんか発動したら、しょぼくてもゲス爺が自慢げに説明しだすだろう。よし、やるぞ!)
多分これだろうとあたりをつけて、オメガは自らの能力を行使する。
さて、ここで皆様に問いたい。
皆様はやたらと勢いよく水が出る蛇口などを見たことがないだろうか?
普段通りに回したのに、中の圧力が強すぎるせいか噴き出る水。
慣れた人なら上手く調節できるだろうが、初めての人は大体
つまり何が言いたいかというとだ。
「
「体が急に重くなって動かない…! まさか私達にかかる重力を何倍にもして!?」
「ば、馬鹿者!? 重力をかける範囲をもっと絞れ! 貴様の身体程、施設は頑丈ではないのだぞ! 儂どころかこの施設全体に重力をかければ、崩れ――」
オメガはやらかした。
「て、天井が崩れてきます!?」
「2人とも! 何とか落ちてくる瓦礫を壊すのでござる!!」
ここは、
そこに超重力で何倍もの負荷をかければ当然。
(はぁッ!? こんな馬鹿げた威力とか聞いてないんですけどぉッ!?)
施設は崩壊して―――生き埋めになる。
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