第3話

 翌日の午後、ナオミは何となく地元の区役所を訪れていた。昨夜からの妄想じみた考えを、少しでも現実に近づけてみたくなったのだ。


「すみません、名字の変更の手続きって、どこで…」


 総合案内で小さな声で尋ねると、年配の女性職員が4階を案内してくれた。エレベーターに乗りながら、ナオミは自分が何をしているのか考え込んでいた。


「なんで、来てもうてんのやろ……」


 4階の戸籍係の前まで来て、ナオミはまた立ち止まる。周りには真面目な用事で来ている人たちばかりだ。その中で自分だけが、こんな突飛な考えで─。


「戸籍関係の手続きは、こちらの番号札を取ってください」


 窓口の職員に声をかけられ、慌てて番号札を取る。待合室の椅子に座り、順番を待ちながら、スマートフォンで名前の変更の手続きについて検索を始めた。


「へぇ……」


 調べれば調べるほど、意外なことが分かってきた。法律上、名前の変更は「正当な事由」があれば認められる。その「正当な事由」の範囲が、意外に広いのだ。


「社会実験…って理由でも、いけるんかな」


 タロウの言葉を思い出しながら、メモを取る手が少しずつ早くなっていく。必要な書類、手続きの流れ、費用─。考えていた以上に具体的な情報が集まっていく。


「もしかして、これ、本当にできる…?」


 その時、ナオミの番号が呼ばれた。


「はい!」


 声が予想以上に大きく出てしまい、周囲の視線を集めてしまう。恥ずかしさに頬が熱くなるのを感じながら、窓口に向かった。


「あの、名字の変更の手続きについて、相談したいんですが…」


 自分でも信じられない気持ちで、ナオミは質問を始めた。それが後に、日本を変えることになる大きな計画の、最初の一歩だとは知らずに。

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