第2話
「あかん、なんか えらいこと 考えてもうた……」
ナオミは深夜のコンビニ勤務を終え、うつむきながら帰路についた。夜明け前の街には、まだ暗闇が残っている。信号機だけが、規則正しく色を変えていた。
朝方の空気は冷たく、制服の上着の中に体を縮こませながら、ナオミは考え続けていた。さっきまでレジの前で思いついた突拨なアイデアが、頭から離れない。
「みんなヤマダ……か」
口の中で呟きながら、ふと立ち止まる。タロウが大学で習っているという社会システムの話。コンビニでの数え切れないほどの接客。そして、テレビで見る度に気になっていた、名字による差別や偏見の話─。
「まさか、これって?」
交差点の信号が赤に変わる。その一瞬の停止の間に、ナオミの中で何かが確信に変わった。
「思考実験やなくて社会実験やっけ? タロウの受け売りやけど」
スマートフォンを取り出し、震える指で検索を始める。役所での名字変更の手続き。必要な書類。法的な制限─。
「えっ、意外と、できる?」
画面に映る情報に、心臓が高鳴るのを感じた。信号が青に変わっても、ナオミはその場に立ち尽くしていた。頭の中では、タロウから聞いた難しい言葉と、自分なりのアイデアが混ざり合い、予想もしない形を作り始めている。
「やっば、マジでやってまうかも……」
夜が明けていく空を見上げながら、ナオミは小さく笑った。明日、いや今日の昼には、区役所に行ってみよう。とりあえず、どんな手続きが必要か聞いてくるだけ─。
そう自分に言い聞かせても、これが冗談や思いつきで済まなくなる予感が、確かにあった。
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