第1話

学校からぼくの家までは電車で15分ほどだ。

 あの後、ぼくは電車に揺られ家に着いた。

 家の門をくぐり、玄関をぬけ、和室に行くと5人くらいが中にはいた。

 布団をかぶり寝ている父と傍には母もいた。

 その隣にはお医者さんだと思われる人とお手伝いさんが数人だ。


「母さん、どうしたの」

「あのね、碧。何があったのかは言えないけれどお父さんはもうすぐ……」


 母の言葉でぼくは長くないとすぐ察した。

 何があったのかは分からないが、父は苦しそうにしている。

 父はあまり喋らない人だった。

 ぼくには職業さえ教えて貰っていない。

 そんな父でも死ぬとなれば悲しい。

 父が大きく咳き込む。

 そのとき、お医者さんがぼくに話しかけた。


「碧様、お父様が何か言っておられます」


 碧様よびに少しにやっとしてしまったがぼくは父の口元に行く。


「お父さん、どうしましたか」


 そうすると、父は小さく息を吐いた。


「碧、おれの跡を継げ」


 そのようなことを言ったと思う。

 その瞬間、父の命は終わりを迎えた。

 ぼくは父が死んだ悲しみと、最期の言葉の驚きで困惑してしまって意識を失ってしまった……


 目覚めた頃には布団の中にいた。

 周りを見て、寝室だということに気づく。

 そういえば父は、と思い体を起こそうとするが痛みが頭に走る。

 父の最期の言葉がまだ引っかかっている。

 跡、とは何の跡だろう。

 そのように考えているとまた頭が痛くなる。

 やっとの思いで体をゆっくり起こそうとした時誰かの声が聞こえた。


「まだ起きない方がいいよ、碧」


 その声はぼくの枕元から聞こえてくるようだった。

 母の声とも違う誰かの声だ。


「だれなの」


 そう呟くと声の主は笑いながら近づいてくるようだった。


「何も変な者じゃないよ、ボクはサクラ」


 ネコのような白い生き物がぼくの寝ている布団の上に飛び乗った。


「ネコが、喋ってる」

「ネコなんて失礼な。キツネだよ」


 たしかによく見たらキツネのようだった。

 サクラと名乗った白いキツネは色々と話し始めた。


「ボクが君のところに来た理由はただ1つなんだよ。それは君のお父さん、晴貴様の遺言なんだ。君は聞いたでしょう?晴貴様は君に跡を継いで欲しかったんだ。それのサポート係に任命されたのがボクだったって訳」


 そう言い、サクラはしっぽを振った。


「跡ってなんの跡なの」


 ずっと気になっていたことを聞いてみた。

 するとサクラは驚いたような表情を作った。


「まだ聞いてなかったのか、ボクは聞いていたと思ってたよ。簡単に説明するよ。君の生まれたのは安倍家でしょ、安倍家は由緒ただしい陰陽師の家柄なんだ」


 サクラの言葉に頭がこんがらがっていた。

 陰陽師、教科書での話しか知らない。


「それでね、晴貴様が安倍家の陰陽師として活躍してたんだけどついさっき殺されちゃったんだ。安倍家陰陽師をここで潰す訳には行かないから晴貴様は後継者を指名したってことさ」


 得意な表情でサクラが説明する。

 まともに話してくれなかった父は陰陽師だったのか。

 まだ現実味がなくて分からない。


「で、ボクは安倍晴明様の時代からずーっとこの家に使えてるんだ。」


 やっぱり安倍晴明と関係があった。


「だけどぼく、何も出来ないよ」


 そう言うとサクラはため息をついた。


「出来なくてもやるんだよ、ボクも教えるから。安倍家の人達の術は強いからね。すぐ強くなれるよ」


 言い終えた後、サクラが消えたと思ったらキツネの姿から人間の姿になった。

 見た目は巫女さんみたいな格好だ。


「こっちのほうが何かと都合いいでしょ。これからよろしくね、碧様」


 ニヤニヤしながらサクラはそう締めた。

 正直まだなんにも信じれないが、布団の下でサクラにバレないようにつねった太ももの痛みが現実だと叫んでいた。


 

 

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