空想みたいな現実で
ゆすらぎ
プロローグ
「……くん、安倍くん!」
先生の言葉で、ぼく――安倍碧は現実に引き戻された。
目を擦り前を見ると霞んだ黒板と先生が見える。
「さっさと答えなさい、この問題」
コツコツと黒板に書いてある問題を叩きながら先生が言った。
寝てたおかげで分かるはずもなく情けない声で返事をした。
「わかりません」
周りからはクスクスと笑いが起き、先生は大きくため息をついて他の人を当てにいく。
蝉の騒ぐ声が寝ぼけた頭に染みる。
いまは夏が始まった7月下旬、夏休み前の授業だ。
海と山どちらもある辺鄙なところにあるぼく達の高校はよく教師が先程のように生徒を当てる。
ぼくが当たると、分からないと答え、みんながクスクス笑い、先生がため息をついて諦めるまでがセットだ。
その調子なので、ぼくはまた机につっ伏す。
蝉の声を聴きながら寝るのが夏の楽しみだ。
しかし、今日は違った。
突然、早歩きで学年主任の先生が教室に入ってきた。
「授業中失礼します。安倍くん、いますか」
クラスの視線が一斉にぼくに集まる。
突然の出来事にぼくは驚いて、目が丸くなった。
主任の先生がキョロキョロして、僕を一生懸命探す。
「安倍くんちょっといいかな」
手を招かれ、ぼくは席を立つ。
ぼくの席は端っこなので外に出る途中、友達の佐藤に話しかけられた。
「碧、なんかしたのか」
ニヤニヤしている佐藤に分からないと首を傾げるジェスチャーをして外に出た。
外に出るやいなや、主任の先生が近寄ってくるのが見える。
その顔はすこし引きつっていた。
「安倍くん、いますぐ帰れるかな」
「なんかしたんですか、ぼく」
「いやいやそんな事じゃないんだけどね。お父さんが倒れたみたいなの」
そう言って主任の先生は俯いた。
お父さんとはもちろんぼくの父親――安倍晴貴のことだ。
「父が倒れたんですか」
「そうなの、だからすぐ行ってあげれないかな。みんなには体調不良でいいよ」
主任の先生の言葉にぼくは頷き、わかりましたと返事をした。
そうしてぼくは教室に戻って帰る準備を始めた。
途中、先生や友達から何故かと聞かれたが主任の先生に言われた通り体調不良で済ませた。
めったに病気にならない父がどうしたのかという思いも頭に浮かんだが、早く行くために振り払った。
しかし、嫌な予感は胸に残り続けた。
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