第3話

「――死因はおそらくビール瓶による頭部の打撲から来る脳挫傷。大きさから見て一升瓶の可能性は低い。そしてその後割れた瓶で殴り続けたからの切り傷がいくつか所見される。諏訪すわちん、どう?」

「……てっきり複数の刃物によるリンチ、とでも言われるかと思ったが。お前がそこまで辿り着くとは思わなかったぞ、リリィ」

「傷口からガラス片が出てきたもんねー」

「見付けたのは私だがな」

「うっ。夜桜ちゃん手厳しい」

「実際これがなければ、私もリンチで片づけたかもしれん。だが頭に集中しているとなると違和感を覚える。わざわざ屈んで浅い傷を付ける必要もあるまい。……ふぁ」


 刑事の諏訪ちんが来ると同時に所見を露わにすれば、ちょっとは驚かれる。ふふんまいったか諏訪ちんめ。俺をいつまでもただの高校生名探偵だと思ってもらっては困るのだ。名探偵は一人いれば良い。俺はそのサポート。アーサーは人たらしだけれど観察眼はぴか一の探偵なのだ。ならば俺は『それ以外』にならなければならない。


 しかし、俺と夜桜ちゃんはごつんと頭をグーで殴られる。


「いったあ! 何すんの諏訪ちん!」

「いくら真夜中でも部外者は入れるな、八月朔日。お前も調子に乗るな、リリィ」

「ちぇー。ねえねえ仕事終わって夜桜ちゃんの引き継ぎ終わったらさ、ラーメン食べに行かない? 三人で。アーサーは家系が好きなんだけど俺は次郎系が好きなんだよねー」

「確かに朝飯の時間だが、重すぎないかそれは……」

「若者なんてこんなもんよ。そして私も警部も腹が出る。でも行きたい。おなかすいた。死体見てたら」

「えっ」

「気にしたら負けだよ諏訪ちん。んじゃとりあえずご遺体移してから書類片づけよー」

「はいはい……百点満点の花丸よ、リリィ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

八月朔日夜桜の解剖学教室 ぜろ @illness24

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画