第2話
運ばれてきたのは中年男性の遺体だった。目が充血してるし出血も多いから酒を飲んでのことなのかもしれない。ちょっと長い髪を括って、白衣を着、俺は夜桜ちゃんの隣から死体を観察した。衣服に乱れはなし。鼻血が出てて頭が少し変形しているから、撲殺だろうか。ふうん、と手袋をした手で凹んでいる頭を触る夜桜ちゃん。よく真夜中の検死が怖くないよな、と思う。しかも一人の時も多いらしい。
犯罪都市トーキョー。いつでも誰かが死んでいる。俺の住んでるのは神戸だけど、時々東京に出向くこともあって、そういう時は夜桜ちゃんと夜通し話をするのが大概だ。ホテルのダブルのベッドで一人泣いてるアーサーが可哀想とは思わない。俺だって勉強したいのだ、医学の道に進むにあたって。
「どう見る? リリィ」
百合籠だからリリィ。従妹も同じ名前で呼んでる俺にはちょっとなじまないけれど、うん、と答えられる程度ではある。
「頭蓋骨の陥没骨折が直接の死因だと思う。でも傷の近くや遠くに切り傷みたいなのもあって、それがどれも一致しないのが気になるな。複数の刃物でリンチ? でも頭を狙う意味が分からない」
「五十点。死因は当たり。後でのこぎりで開いてみないとわかんないけど、脳みそはぐっちゃぐちゃだろうね」
「夜桜ちゃん、真夜中にそういうの怖いからやめて。そしてそこまで立ち合おうとは思ってないよ。さすがに図々しい」
「高校生が入り込んでる時点で図々しいだろう。多分傷のどこかに――」
きらっと光るものを見つける。あっと声を上げると、夜桜ちゃんが摘み出したものがかつんと銀色の皿に入れられる。茶色いガラスだ。そして俺の頭の中でも、死因が繋がる。
「夜桜ちゃん、俺分かったかも」
「よろしい。では答え合わせだ」
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