第4話「罰ゲーム十四日目〜二十三日目」


 十五日目


 今日はバレー部の見学。体育館の二階から立花を観察。疑似とはいえ告白相手をもっと深く知りたいと悟るのは自然の道理だ。なのでストーカーじゃないよ。

 試合は観戦したことがあるけと練習風景は初めてだ。他にも五部活ぐらい使用しているので賑やか。

 バレー部はレシーブ練習、代わる代わるコート目いっぱいにボールめがけて飛び込んでくる部員達。

 それとは別に立花は後輩セッター達の指導にあたっていた。不意に目が合ったから手を振るも無視。当然とはいえやはり嫌われているなぁ……はぁ。

 僕は口パクで立花に好きです、付き合ってくださいと伝えると、それに応答するようにベーと舌をだした。

 可愛い……。


 十八日目


「ゲホゲホ」


 僕は風邪を引いた。どうやらこの前、長時間大雨の中ずぶ濡れになったのが原因。身動きできないので家族達には申し訳ないが、そのまま夜まで寝ていた。

 相変わらず運に恵まれてないな……。されど今回は告白しないで済みそうだ。今更罪の意識が軽減されるわけでもないけど心は楽になる。

 友人達も興味が失せてきたのか話題に出てこない。今なら風邪を理由に説得も可能じゃないか?

 しかし動機は不純だけど、こんなに真剣に向き合ったことってあったかな? 高校受験の時でさえマイペースだった。立花にとっては嫌がらせでしかないけど、どうせだったら最後までやり遂げたいという選択肢も脳裏にある。

 

 それにしても残念だ。最近日課になっている部活見学で立花の勇姿を目に焼き付けたかったがやむなし。

 スマホ弄りながら静かに時を過ごしていると知らない電話番号からかかってくる。何度もくるからそのまま放置していたら、LINEからクラスの女子が電話出ろと催促された。 


「高橋早く出ろ」

「いやいや物騒な世の中なので知らない番号は出ないよ」


 声の主は立花だった。

 僕のことなど害虫程度にしか意識してないはずなのに驚く。


「ならさっきの番号を登録しなさい。あ、だからっていつでも掛けてこいという意味じゃないからね。あくまでも緊急用。光栄に思いなさい。私が男子を電話帳登録するなんてないんだからね」

「了解。立花の初めてをもらえて嬉しいよ」


 いいい言い方ぁ! ⸺受話器から慌てたトーン高めの怒声が響く。

 緊急にかけるというほど仲が進展したわけじゃないのに女子の思考は分からん。しかしなし崩し的にLINEの友達登録もしたから大収穫だ。何故かクラスの男子は誰も立花の連絡先は知らない。女子に口止めさせている念の入りよう。確かに中等部から女子しか相手にしなかったもんな。


「風邪引いたんだって? 私のせいじゃん。これで何かあったら目覚めが悪いのよ」

「完全に僕のせいだよ。立花は関係ない」

「それでもさ、あの場にいた身としてはね」

「ありがとう、立花は本当に優しいや。だから好きなのかもな。付き合ってくれたら僕は幸せになれるよ」

 

 僕は熱のせいで意識が朦朧としているから素直な気持ちが漏れ出てくる。対して立花は、「バカ‼」と一言発して通話が途切れた。ガチャ切りってやつ。


 LINEでバーカと黒猫スタンプが贈られてきた。立花は猫が好きなのかな? このキャラあの捨て猫に似ているな……。


 二十日目


 登校早々友人達に悪乗りしすぎたと頭を下げられた。お前に良くない噂も立っているしもう止めてくれと告げられる。直ぐ様音を上げ途中で降りると読んでいたらしい。でもその申し出は謹んで断る。折角ここまで粘ったんだ、後悔したくないから途中下車せずにチャレンジしてみるよと宣言。意地になっていた。

 それにもう罰ゲームとか約束とか僕はどうでも良くなっていた。本気で立花を好きになっていたから……。

 だから一ヶ月はタイムリミットとしてきりがいい。その後は事の真相を白状して土下座する。これはけじめ。どうせ駄目だけどやり遂げるよ。

 

「好きです付き合ってください」

「毎度毎度ロマンチックな演出もない告白。零点だよ」


 放課後早速行動へ移すも玉砕。もう立花の傍若無人ぶりも心地良く感じるや。僕はマゾの素質あったんだね……。

 

 二十三日


「うまいだろ?」

「うん。いいお店知っているね。さすが男子」


 何故か立花と食事していた。発端は最近飼った猫の予防注射。溺愛しているため可哀想で暴れることもあり女の子一人じゃ付き添い無理だったと。

 男子は距離を置いているので知り合いは僕しかいないから白羽の矢が立った。


「立花、これってデート?」

「断じてデートじゃないわよ! この年中発情期。何でもかんでも色恋沙汰にしてこれだから童貞高校男子は駄目よね」

「確かにラーメン屋じゃ雰囲気も台無しだもんね」


 僕は醤油ラーメンを啜る。立花は味噌ラーメン大盛り……のお代わり。体育会系だけあって食べるなぁ。すげーわ。


「ふん!」


 あんただったら余計な緊張もしないし一緒にいても気疲れしないから楽なのよ⸺立花は下を向きゴニョゴニョ呟いていたけど聞き取れなかった。

 それにしても立花の猫どこかで見た気がする……はて?

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