第3話「罰ゲーム八日目〜十三日目」
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九日目
立花が泣いていた。ユニフォームのまま体育館裏で座り込んでる。
今日は練習試合があったけどボロ負けしたんだ。それもスタメンだった立花のミスで。
今日のノルマを達成するチャンスだが、これは告白するシチュエーションじゃないし、僕もそこまで野暮じゃない。
何よりなんて声を掛けていいのか最適解を導き出せないでいた。
そのまま告げず帰ろうとするも物音を立てたせいで、「何よ高橋、惨めな私を笑いに来たの?」鼻声で罰が悪そうにギロリと睨みつける。
「君が好きだと伝えたいけど僕も空気ぐらいは読むよ」
「嘘つけ。弱ってる私にアプローチをかけるなんて最低。大体今は涙と鼻水で顔グチョグチョだよ」
「立花は頑張った」
「頑張った? レギュラーの選考も兼ねていたので勝たなきゃ意味がないんだよ」
「だったら次に挽回すればいいだけの話だ」
立花はセッターだ。うちのバレー部は高身長が多いので平均身長でも出来るセッターやリベロはライバルが多い。
「他人事だから言いたい放題言ってくれる。私は先輩達とインターハイで暴れたかったんだ。しかしその夢が遠ざかる。ベンチは惨めだ」
「僕はただの観客だから詳しいことは知らない。でも頑張ってる君が好き。勝敗はどうあれあのコートの中で輝いていた。熱くて感動したよ。立花のファンになってもいいかな?」
僕は初めてテンプレートじゃない胸の内を立花へ打ち明けこの場を立ち去る。
十一日目
雨。大雨だ。
濡れると水も滴るいい男なんて言葉があるけど、結局イケメンだから映える話。僕だと水にあたってもモブはモブが相応である。
今の僕はズブ濡れだ。何故か? 無論理由がある。捨て猫だろうか、みかん箱に入れられた子猫へ傘を与えたからに他ならない。
残念ながらペット禁止マンションだからうちで飼うわけにいかないので、有り金叩いて購入したミルクと餌を置いてひとまず立ち去った。勿論誰かこの子を拾ってくださいと一筆したためて。
でもそんな殊勝な善人なんてこの世にいないから、用事を済ませたらネットで飼い主を募集しよう。
ひとまずこの件は保留。毎度の日課を済ませたいから、悪友達から得た情報にてこのまま下校ルートで高橋の待ち伏せ。部活が長引いているのだろうか少し遅かった。
「立花、君が好きだ」
「あんたね……ずぶ濡れじゃん」
「傘がなかったんだよ」
「だからって雨ざらしになりながら私の告白を優先するな」
「日課だからね。付き合ってもらうまでは執拗いよ」
「はいはいでも答えはノーだよ。今は部活を優先したいしね」
「それって……」
「うるさいうるさい! 勘違いしないでね⁉ 今のは言葉のアヤ、アヤだ。誰があんたなんて好きになるもんですか。それよりも試合で負けた時使ったタオル、縁起が悪いからあげるわ。捨てるなり雑巾にでもしなさいな」
スポーツバックからバスタオルを放り投げる。
僕は危なげに頭でキャッチ。
「ありがとう立花」
「ち・が・う・か・ら。あくまでも高橋というゴミ箱へ捨てただけ。これだから非モテは……」
僕のこと嫌っているのにやはりスポーツマンだよね。優しいや。
このあと心配で戻ったが猫はいなかった。僕が先程書いた置き手紙には任されたと女の子ぽいまる文字で返信されていた。
世の中捨てたもんじゃない。
十三日目
下校中、夕方買い物がてら商店街へ。おやつのコロッケ買うついでに焼き鳥屋へ足を運ぶ。
高橋のスケジュールは把握しているので計画を立てやすかった。
「立花、君が好きだ」
「はいはい」
「僕と付き合ってください」
「嫌なこった。顔洗って出直してこい。ぼけ」
辛辣でそっけないやり取りも慣れた。
あれから毎日焼き鳥を買いに行っているのでおやっさんとも顔見知りになっている。
「そういえば焼き鳥が結構余ったんだ。もったいないから持っていってよ」
「いいの? 立花ありがとう。妹達も喜ぶよ」
「これは好意じゃない、勘違いしないで。あくまでも捨てるのはもったいないからだから。うん」
「それでもありがとう。お礼を言わせて」
僕は頭を下げるとフンと鼻を鳴らす立花。なんか以前と違い話しやすくなっている。気の使いすぎかな……?
でも本当に余り物? ネギマは焼き鳥屋売れ筋ナンバーワン人気商品じゃん。
不意に店の奥より親父さんが、普段作らないみゆきだけどよ串打ちから制作した特製焼き鳥は愛情一杯だぜぇ! ダミ声で困惑した疑問を明かしてくれる。お父ちゃん余計なこと言わないでよ! みゆきよ父ちゃん心配なんでぇ! などと店内に怒声が飛び交った。猫の鳴き声まで。賑やかだな。羨ましい。
でも、ははは、まさか……立花が嫌っている僕にそんな施しするわけがないよ。面白い冗談だ。おやっさんは多分立花の恋人か好きな人と勘違いしているんだな。
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