不死vs不死!
自分を能力者だと言い張り、こちらを睨んでくる男は、全体的にぼさぼさした髪で、黒いパーカーを着ている。
普通の中学生の様な服装をしている。
そして、吸い込まれるような奇妙な瞳をしていた。
しかし瞳の奥に広がる闇は恐ろしいほどに深い。
「俺は、ずっと仲間から俺の能力は『Undeadー不死ー』の下位互換だと馬鹿にされ続けていた。
だからここでお前を殺して、俺の能力が上位互換であることを証明するんだ。」
彼の瞳の奥からは深い闇と共に、強い執念も感じられた。
「俺は一応不死だ。正確には、死んだら傷が修復され、足りない栄養が作られるだけだがな。つ
まり、わざわざ死ななくても体を修復できるお前と違って、俺は一回自殺してリセットしなきゃいけないんだ。」
確かに私の下位互換だ。
「でもお互い不死身でしょ、どうやって決着つけるの?」
私の言葉に彼は口元を歪め、その美しくも奇妙な瞳を光らせた。
「脳だ。」
ああ、なるほど。
「俺は、生き返るとき基本的には切り離された体は引き寄せられてくっつくが、大体十メートル以
上離れると回収されず、新しく生え変わる。そしてお前も大体同じ感じに傷が治るだろう?」
やっぱり。
1987年、アメリカの哲学者、ドナルド・デイヴィッドソンが『スワンプマン』という思考実験を考案した。
『ある男が沼地を歩いている最中に雷に打たれ、死んでしまいます。
その時、偶然にも全く同じ場所で、雷のエネルギーが沼の物質と化学反応し、男と全く同じ分子構造を持つ新たな存在「スワンプマン」が誕生します。
スワンプマンにはなぜか男の記憶が残っており、その性格や行動パターンも男と全く同じでした。
また、スワンプマンは自分がスワンプマンであるという自覚はなく、自分は雷から運よく生き延びた男であると認識しています。
さて、ここで問題です。
スワンプマンは元の男と同一人物であると言えるでしょうか。』
というものだ。
これと同じことをやるのだ。
私の意志や考えがあるのは私の脳。
それを切り離したら私は死ぬ。
でも、体は生きているから体から頭が生えている。
それはもう私ではなく私のコピー。
死の定義にもよるが私はそこで終わり。
「じゃあ私が勝ったら、あんたは今後ずっと私の部下として働いてもらうね。死ぬまで。」
私の言葉に彼は一瞬動揺したが、すぐに余裕な表情を取り戻した。
ここで勝てば強力な戦力が手に入る。
一応私がアメリカまで来ていることはバレてないみたいだし大丈夫か。
私は、この男の挑戦を受けることにした。
私達は近くにあった古びた倉庫で戦うことにした。
昔リオンと戦った倉庫。
「よし、じゃあ、行くぞ!」
男は目をギラつかせファイティングポーズをとった。
ちなみにこの人はブローディアという名前らしい。
私はショットガンを構えた。
狙うは頭。
わざわざ切断することに拘る理由は無い。
吹き飛ばせばいいんだ。
私がトリガーに指をかけると、不可解なことが起こった。
彼は、一瞬で距離を詰め、私の腹に強烈なフックを食らわせた。
なんだったんだ、今の格ゲーみたいな動き!?
そして彼の右手から、紫色のオーラのようなものが見えた。
例えるなら、ストリ◯トファイターのサイコパワーのような。
「何それ?」
彼は私の言葉に多少驚いた顔をした。
「知らないのか?」
「うん。」
私は腹の痛みを我慢しながら彼に話しかけていた。
「これは能力者ならみんな出せると思っていたのだが。...これは特に名前は無い。俺は取りあえず『波動』と読んでいる。自分の残虐性が高ければ高いほど一度に出せる量が増える。」
...波動。
クソ、新しい要素がドンドン増えていく。
出せる量は残虐性に比例する。
まあとにかく今は戦闘に集中だ。
「オラオラオラオラー!」
ブローディアは波動が籠もった拳を、私に叩きつける。
動きからして武術の心得があるようだ。
構え方とパンチの打ち方、パンチしか使わないことから、きっとボクシングの動きだろう。
そんなことを考えながら私は彼の攻撃を必死に防いでいた。
「なかなかやるじゃないか、女のくせによ。」
「私も小さいときに空手やってたからね。」
「なるほど。」
次々とパンチを放ち、私の首を狙う彼はずっと笑顔を絶やさなかった。
そして彼の瞳の奥からは、強い希望を感じた。
波動の籠もったパンチは痛い。
熱、そして電気のようなしびれ、どっちも感じる。
そしてパンチが、かすっただけで打撃のようなダメージを与えてくる。
私は一旦後ろにジャンプし、ショットガンを撃った。
『どーん』
散弾した弾が、ブローディアの体に衝突し、肉と血を撒き散らす。
そして、彼は死んだ。
しかしこれは本当の死じゃない。
あくまでこれは一時的に体の自由を奪っているだけだ。
飛び散った血と肉がブローディアの体に吸い寄せられていく。
そして傷はたちまち塞がり、元の状態に戻っていく。
そして彼の瞼が開き、奇妙な瞳を見せる。
今だ!
『どーん』
生き返った彼に向けてまたショットガンを撃った。
ブローディアが、生き返った瞬間ショットガンを撃つ。
殺し続けることで半永久的に彼の自由を奪える。
『どーん』
また地面が濡れた。
今だ。
生き返る瞬間に顎を踏んで気絶させれば、確実に首を狙える。
さっき頭をショットガンで吹き飛ばそうとしたが、こいつは自分の鼻から上を波動とかいうものでガードしている。
首を狙うほかないようだ。
私は足を持ち上げ、彼の顎に落そうとした瞬間、彼は首をずらし、衝撃を逃がした。
なんて反射神経だ。
そしてすぐに起き上がり、すかさず左フックを放ってきた。
右腕でガードする。
その衝撃でショットガンを落としてしまった。
がしゃんという音が倉庫に響く。
そしてかなり力を込めていたのか、ブローディアには打ち終わりの隙があった。
今だ。
私が、拳を構えた瞬間、奇妙な感覚が体に走った。
それは少し心地の良いものだったが、今はそんなことは考えずに殴ることだけに集中。
私の右ストレートがブローディアの左頬に炸裂した。
その際、私の拳は紫色のオーラのようなものを放っていた。
ブローディアは、今のパンチが相当効いたのか、なかなか立ち上がらない。
意識はあるようだが。
「この状況で奇跡的に発動させるとは...」
彼の言動から予想するに、私は今『波動』を使ったのだろう。
「もう俺の負けでいい。」
私は彼の予想外の言葉に、驚きを隠せなかった。
「私に勝って、自分をバカにした奴らを見返したかったんじゃないの?」
彼は『Undeadー不死ー』の下位互換だと色んな人にバカにされたと言っていたが悔しくないのか?
私には疑問しかなかった。
「俺はお前に勝っても嬉しくない。その、アレだ、お前は女だし。」
彼は顔をほんのりと赤くし、俯いたまま話し続けていた。
その瞳には、今は温かい光が見えた。
でも、その瞳の奥に広がる闇は未だに底が見えないほど深い。
「これはかなり前の出来事なんだがな。」
俺はアメリカのニューヨークで生まれた。
俺は日本人の父とアメリカ人の母との間に生まれた子どもだった。
父は日本の食品をアメリカに輸入していたらしい。
俺は、五歳の時、ボクシングに出会った。
俺は毎日死ぬ気で練習した。
そのせいで成績が落ちることは無かったが。
俺は頭の出来もよかった俺は、ずっと学年トップの成績だった。
喧嘩でも、頭の良さでも、俺がいた地域の中では俺が一番だったから俺はスクールカーストの最上位に君臨していた。
喧嘩が強い上にやたらと知恵が回る、と先輩からの印象は良くなかった。
まあ、常に頂点だったから嫌なことはほとんどなかった。
でも、どこか退屈な日々だった。
でも俺の退屈な日常は長くは続かなかった。
俺が15歳のとき、マツオカナナとかいうやつが能力者であることがバレた。
そいつは、近くのスラム街でそこそこ有名だったからそいつが能力者であることは、一瞬で噂になって街中に広がった。
そいつは普段無口でパッとしないやつだったが自分の正体がバレた瞬間人が変わった。
なぜか逃げることはなく、近くにいる人を手当たり次第殺し始めた。
俺の親も。
俺も殺された。
そこで俺は生き返って、自分が初めて自分が能力者だと気がついた
そしてバレないようにして十数年。
現在に至る。
「.....ということだ。」
なるほど。
ナナに家族を奪われた上に自分の人生を滅茶苦茶にされたのか。
いいねー。
私は無意識のうちに不敵な笑みを浮かべていた。
私の目的はナナを止めること。
彼女を止めれば、私は英雄扱いされて政府から追跡されることも無くなる可能性がある。
そしてこいつのナナへの復讐心を利用することが出来るかも知れない。
「お前..今の何が面白いんだ?」
ブローディアは奇妙な瞳をぎらつかせ、こちらを睨みながら、私に質問した。
その表情からは怒りを感じられる。
そうか、私は無意識のうちに笑っていたのか。
まあ、当たり前といえば当たり前だ。
学校ではあんまり目立ちたくないから常に二位を取り続けたけどそんな遊びも簡単すぎてつまらなかった。
だから、ナナとの戦いが楽しみだ。
負けたら首を切られて殺されるかもしれない。
そんな冷静さも必要な戦い。
正面から戦っても勝てないから作戦を入念に組む頭脳戦。
楽しくない訳がない。
「ごめん、何でもない。」
とにかく今やるべきことはこいつを仲間に取り込むことだ。
「ねえ。」
私はブローディアに問いかける。
「私と組んでナナを止めない?」
「え?」
「私の目的はナナを殺すこと。あなたにも協力してほしいの。」
「...わかった。俺もアイツに復讐したい。」
こいつの瞳の中に宿る光が強くなったと同時に、瞳の奥に隠れた闇も、より一層深くなった。
よし、こいつは完全に私の手下だ。
ナナ殺すことが目的であれば、こいつはどんな命令もロボットのように聞いてくれる。
簡単には裏切らない。
気が付いたらもう夜だったので、とりあえずブローディアを仲間にした私は近くのホテルで休むことにした。
ブローディアは別のホテルを使うらしい。
ブローディアはまだ顔がばれていないので、
彼に私の首を切ってもらおう。
しかし、楽しみで寝れない。
ナナとの対決。
実は、ナナのパソコンの裏には付箋が貼ってあって、そこには、『私がホワイトハウスを攻略したら、その一週間後、私は日本にある電波塔を折る。私は君との対決を楽しみにしているよ。』と、書いてあった。
つまり全て彼女の彼女の計画通りだ。
パソコンは『ギフト』に入る前に置いて行ったから、付箋はその時点で貼ってある。
つまり、彼女は最初から私を敵に回すつもりだったんだ。
なぜそんなことをするのか?
答えは一つ。
私と同じで、彼女も命がけのものじゃないと退屈だからだ。
彼女との対決....楽しみだ。
早く日本に行って戦いたい。
だが日本の電波塔のセキュリティは伊達じゃない。どうやって侵入しようか。
私とブローディアは不死身だから、車で突っ込んでいくか?
しかし、電波塔は高さ400メートルあるから頑張ってナナの後を追いかけてもきっと追いつけない。
まあ、今はそれよりも武器だ。
ホワイトハウスでの戦闘を見る限り、彼女に正攻法で勝つのは限りなく不可能に近い。
能力者って、案外楽しいかも。
ーナナー
ホワイトハウスでの戦いはきつかったなー。
流石に手を抜きすぎた。
波動も使えばよかったかな?
いや、ナツキちゃんならきっと自分で見つける。
でも、ナツキちゃんと話しているとき、ずっと違和感があった。
それはあの子の言葉はほとんど彼女が本当に思っていることではなく、嘘であること。
そんな気がした。
あの子は何か秘密がある。
彼女の心は、きっと普通じゃない。
頭のネジがぶっ飛んでるかもしれない。
そう考えるとワクワクしてきた。
常人には想像もできないことをしでかすかもしれない。
私の想像を遥かに上回るかも知れない。
そんな期待が私の胸をいっぱいにした。
「楽しみー。」
心の声が漏れた。
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