羞恥の周知と腑抜けの刀

カワウソ

第1話 羞恥の周知と腑抜けの刀

 読まれたくないけど読まれたい。


 相剋する矛盾アンビバレンツした羞恥心と名誉欲が、脳髄で相剋した結果、チラシ裏に書き殴るべきこの駄文を、大衆の耳目に晒すことと相なった。思索の刀で掻っ捌いた腑(はらわた)を、鑑賞に耐えるよう美しく推敲飾り立てすることもせず、毀誉褒貶の飛び交うインターネット空間に投擲する。


 名状し難い苦しみを、読まれようとする努力も放棄し、共感も批判も求めず、さりとて心の奥底で憐れみシンパシーを強制する暴力的な欲望に突き動かされて書かれた本文は、もはや排泄物である。


 自らの感情のデトックスと引き換えに、不特定多数に不快感を及ぼしかねない苦しみを垂れ流す排泄行為。あらゆることに我慢し、いい人を演じ、「まだまだ人生これからじゃない」と励まされる齢××にして人生を諦め、自らの終焉を密かに望む心身ともに健康な人間。


 死の淵に瀕したら、自らの人生を後悔し、もっと生きたいと願うであろうことは想像に難くない……ことを想像しながら、手を伸ばせば届く幸せを恐れ、思い通りに行かない怒りを抱えながら、私に関わる全ての人のそこそこの幸せを願い、ありえたであろう可能性を忘却しようと努め、これで良かったんだと必死に洗脳し、凪のように穏やかな能面をつけて日々を過ごす。


 「死ねば全てが無になるだろう?」という仮初の希望を胸に、安らかな絶望を抱えて日々を過ごす。


 そんな人間に、私はなりたくなかった。


 冗談じゃない。怒りも悲しみも、あるのだ。本当は。

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羞恥の周知と腑抜けの刀 カワウソ @otter3498

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