第6話-2 玄磨との遭遇(後編)

「霜月さん!あの、僕は瞬と同じくらい強くなれますか?」



霜月は動きを止め、少し振り返ると諒の目を見た。



「やり方次第だよ。」



そう言って向き直すと霜月は行ってしまった。

瞬のところまでなんてまだ及第点だなと言うのはやめた。





瞬は古い寺を見つけた。

今日寝泊まりに使っているのはこの寺だなと瞬は思った。諒はもう寝ているだろうか。霜月さん出てこないな。

音を立てずに寺に入る。障子を横に引く。



「うおっ!!」



瞬は思わず声を上げた。

障子の向こう、つまり障子を開けると目の前に諒が立っていた。瞬は寺の中の気配も探らずに障子を開けたことに自分自身で驚いた。久しぶりの任務を終えて気が緩んでいたのかもしれない。

諒は怒った顔をしている。

俺、何かしたっけ?と思いを巡らせた。

そこに諒は噛みつくように瞬にこう言った。



「瞬!僕が玄磨を倒すから邪魔しないで!」



諒はそう言うと部屋の中へ走っていってしまった。

昨日諒と離れてから任務中もここへ帰ってくる間も諒の気配は無かった⋯⋯はずだ。諒がそんなに上手く気配を消せるとは思えない。霜月さんが暗殺のことバラしたのかな?と思ったが、それなら読唇術まで使って隠した事に説明がつかない。⋯⋯うーん、解決するものではないなと感じ、頭をポリポリ掻きながら呟いた。



「⋯⋯寝るか。」



瞬は部屋の端で丸くなっているだてまきの頭を優しく撫でた。

諒は怒っているようなので邪魔しないように部屋の隅で横になった。しばらくすると小さい気配が近づいてくる。諒だなと瞬は思ったがまだ寝ているふりをする。諒は音を立てないように瞬の頭の近くまで歩いてきた。そして何かを置いた。そこで瞬は諒の方に頭を向けた。



「諒、俺なんかした⋯⋯」



瞬は諒に言い始めると、諒は頬を膨らまして怒った顔をした。



「何で起きるの!?⋯⋯それ、お腹空いてたら食べてよね!」



諒は包みを指さすとまた走り去っていった。瞬はやっぱり諒は怒ってると確信した。

諒は消したと思った気配を簡単に見破られて悔しくて仕方なかった。





次の日に夜が明けると霜月が戻っていた。だてまきは霜月にくっついている。

霜月は瞬と諒を交互に見た。



「君たち喧嘩でもしたの?」

「諒から一方的に。」

「喧嘩してない!」

「僕がいない間に何かあったのか?」



諒は瞬が口を開こうとするので急いで語気を強めて声を上げる。



「僕が玄磨を倒すから邪魔しないでって瞬に言っただけなの!」



霜月は昨日の出来事を思い出した。諒は早く強くなりたくて無駄に肩に力を入れて空回りしてるなと感じた。完全にとばっちりを食らった瞬の顔を見ると可笑しさが溢れてきて笑うのを堪えられなくなった。思わず二人から背を向けて咳き込むように笑った。それを見た諒は大声を上げる。



「霜月さん、全然面白くないの!」

「諒、昨日の夜留守番させられたのをそんなに怒ってるのか?」

「瞬も全然分かってない!」



諒はますます怒った。

腹を抱えた霜月は笑いすぎてを上げた。



「もう二人ともやめてくれ!」



今日は残りの玄磨とその仲間に接近する。

出掛ける準備をしている最中、しんと静まり返っていた。先に音を上げたのは瞬だった。



「諒、何が悪かったのか教えてくれ。これじゃあ任務にならない。」

「⋯⋯僕は瞬に怒ってるわけじゃないの。自分の無力さに怒ってるの!」



少しして諒は瞬の目を真っすぐ捉えた。



「⋯⋯瞬に守られるんじゃなくて、ちゃんと隣に並べるように頑張るから待ってて。」

「おう、分かった。俺に協力出来ることがあったら言ってくれ。」



それを聞いた霜月は出掛ける準備をすると瞬と諒を見た。



「僕は周りに他の者が居ないか見回るから別行動だよ。」



霜月どこかへ行ってしまった。

そしてだてまきは霜月を追って行ったのかどこかへ行ってしまったのだ。

瞬は昨日暗殺を行ったところまで行ってみたが誰の気配もしない。そのまま直進して行く。しばらく移動していくと諒はもそもそと動いて瞬を見た。



「ごめん、僕トイレ。」

「おう、分かった。ここで待ってる。」



諒は森の奥に入っていく。トイレを済ませると近くに水が流れている音がする。毒蛙調達したいなと思って音のする方へ歩く森が切れて目の前に川が見えた。がさっと右の方から音がする。隠れるのが間に合わなかった。がさっと出てきた人影は諒に声をかける。



「あれっ諒じゃね?」

玄磨げんま⋯⋯。」



声の主は玄磨だった。向こうも一人のようだ。玄磨は呑気に聞いてくる。



「こんなところまで任務か?」

「玄磨、このままだと未許可の脱里者として処分されてしまう。⋯⋯僕は玄磨を里に連れ戻しに来た。」



諒は自分の声が震えていないか心配になった。玄磨は顔の前で両手で大きなバツを作る。



「断ーる!あんな里へ二度と戻るか!」



意外だった。玄磨は諒より強かったし良い待遇を受けていたと思っていたから、そんなにも里に帰りたくないなんてと諒は思った。玄磨は明るい顔を向けてくる。



「これから黒獅子の里と言う新しい里を作るって言うんでそっちに参加しちゃうのよ。」

「新しい里?」

「そ!黒獅子様は凄いんだ!どの里出身でも希望者は入れるって言うんだ。里の気質に合わないやつなんかもみんな入れるって皆喜んでるんだ。

そうだ、この際しがらみは忘れて諒も入るか?紹介してやるよ。暗器は喜ばれるんだ。」

「断る。」



諒は玄磨を真っすぐ見るときっぱり言った。玄磨は笑顔をスッと引っ込めると不満そうな顔をした。



「つまんねーやつ。実力もないのに頭まで古いのかよ。」

「玄磨、僕たちは暗器としてずっと比べられてきた。そろそろ決着着けない?」

「なあんだ!お前もちょっとは面白いやつになったんだな!」



玄磨は嬉しそうにニコッとして諒の背中をバンバン叩く。そのまま玄磨は自分の方に諒を引っ張って寄せるとこう凄んだ。



「やめてって泣いても今回は止めないからな。」



諒は恐怖に包まれそうになったが昨日の夜の瞬の暗殺を思い出していた。ここで踏みとどまっている場合じゃない!

諒は強い目で玄磨を見た。



「お前を倒してやる!」

「良いねえ!やろうじゃないか!」



玄磨は走って近づいてくる。諒はすぐに手を刀にして構える。



「おっ構えも早くなったね!俺を楽しませてくれよー!」



玄磨は暗器の力を使った。



【次回予告】

次回はついに諒と玄磨との闘いが始まりますね。諒はどうするんでしょうか?

次回の作者にすみイチオシの台詞↓

「便利だけど、俺、全部防げるんだよなぁ。」

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