第6話-1 玄磨との遭遇(前編)

諒はへそを曲げていた。霜月と瞬は長いこと諒の元へ戻って来なかったのだ。二人で何かを話していたようだが、二人は諒に何も言わなかったのだ。しかし何も教えてくれなかったと諒は思ったが口にはしなかった。

なぜなら意地悪で教えてくれないわけではないのは諒も分かっていたからなのだ。



相変わらず霜月の特訓は続いていた。瞬の左手もすっかり治り霜月にこってり絞られているようだ。夜になると二人ともボロボロになっていた。特訓の合間に、いや、捜索を主とし合間に特訓をする1日に変わっていった。ここしばらくだてまきが帰ってきていない。瞬と諒は心配していた。霜月にだてまきのことを聞くと毎回心配ないと返してくる。

情報屋を通じて探すが手がかりがない。ある晩に霜月は二人にこう話し始めた。



「ここしばらく白龍の里も周り、主な白龍の里の任務先付近など探したが情報は無かった。主要な道は大体通ったから居る場所は道から外れた場所だと思われる。」

「俺も暗殺で外に滞在するのによく使う古い寺、洞窟、少し奥まったところにも居なかった。彼らは特定されるのを避けるため、移動し続けているのかもしれない。」

「そうだな、移動し続けていると仮定すると、移動し続けられる能力がある者か少数の可能性が高い。諒、玄磨たちは全部で何人くらいいるんだ?」

「玄磨の取り巻きは二十人くらいだったと思う。そのうち剛についたのがその半分近くだったから、十人前後かもしれない。」

「十人だとすると、五人二チームに分かれている可能性が高いな。」



そこにある者が近づいてきた。



「にゃーん」



瞬と諒はガバっと声のする方に振り向いた。その者を見ると笑みがこぼれる。二人は近づいていった。



「だてまきー!!」



だてまきは瞬の足元にすり寄ると諒の元に歩いた。諒はだてまきをぎゅっと抱きしめた。

その後、瞬のところに戻ると瞬はだてまきの頭を優しくなでた。霜月はだてまきを見ている。だてまきは瞬が撫でるのを終えると霜月の足に近寄った。



「にゃん、にゃーん」

「だてまき、なぜあるじが一番最後なんだ?」



だてまきにニッコリしながら聞く。瞬と諒は背中にゾワッと寒気を感じた。



「にゃん、にゃーん」

「分かった。報告ご苦労。」



霜月はだてまきに声をかけると干した鶏肉をあげた。だてまきは干し肉を咥えると素早くどこかに行ってしまった。この時瞬と諒はだてまきが一番強いんじゃないかと感じた。

しかし瞬は肝心なことを聞く必要があると思った。



「霜月さん、だてまきは何て言ってたんだ?」

「だてまきが玄磨たちの居場所を見つけたそうだ。」



瞬は前に見た霜月の記憶を辿り、霜月と白龍のやり取りを思い出していた。玄磨たちを連れ戻してほしいという話になった時、白龍から人相を聞き出すとさらさらと紙に書いていた。それは本人が紙の中から出てきそうなほど上手だった。多分本人そっくりなのだろう。そう思うと影屋敷からの依頼で描かれていた諒の顔は一体誰が描いたのだろうと瞬は疑問に思った。



その晩、霜月から指示がなかったので痺れを切らして瞬は聞いた。



「それでいつ捕まえに行くんだ?」

「夜目もあまり効かないだろうから相手もそう遠くまで移動しないだろう。今日はこのまま休むとする。明朝、夜が明けたら指示を出す。それまでは眠っておけ。特に諒はちゃんと眠るんだぞ。だてまき、諒と寝てやれ。」



諒は素直にコクンと頷くとだてまきに近づいた。だてまきはうつぶせになった。

諒はだてまきに顔をつけると程なくして寝息を立て始めた。諒の小さな手はきゅっと拳に握られていた。



夜が明ける少し前に瞬は肩にそっと手が置かれる感覚があった。それはものすごく穏やかな気配だったので、飛び起きずに目だけうっすら開けると霜月が片膝を付けて瞬の横にいた。瞬が起きたのを確認すると音も立てずにすぐ立ち上がり森の奥に入っていく。霜月が振り返る。瞬はついて来いと言われていると思った。音を立てないように付いていく。霜月が歩くのをやめた。瞬の方に振り返ると瞬と目があった。霜月は口を開いた。瞬は霜月の口元を見ている。口はパクパクと動いているが声は出ていない。読唇術で読まなければならなかった。瞬もパクパクと口を動かす。しばらくそれが続くと瞬はどこかに行ってしまった。



夜が明けて朝日が顔を出し始めた。眠そうな顔をした諒がムクリと起きる。昨日はぐっすり寝れたようだ。諒は辺りを見渡す。



「霜月さん、おはよう。瞬は?」

「諒、おはよう。瞬にはある任務を依頼してその準備をしに出掛けたんだ。」



その後簡単な木の実などを口に入れ、顔を洗い支度を整えると霜月は諒を近くに呼び寄せ話を始めた。



「昨日話した通り玄磨たちに接触する。玄磨の周りには取り巻きもいてちょっと邪魔なんだ。瞬はその取り巻きを片付けに行く。諒、君には玄磨を倒してほしい。」



霜月と諒は移動した。途中昼過ぎに長い休憩をとって進んだ。辺りは暗くなってきた。霜月は小声で諒に話しかける。



「これから瞬のいつもしている仕事ぶりをみてもらうよ。僕には相手から自分たちを見つからないようにする能力があるから安心して。⋯⋯瞬には内緒だよ。」

「分かった、約束する。」



瞬はだてまきに案内され一度白龍の里の者を見つけてから距離を取っていた。だてまきはどこかに行ってしまった。近くに居ないほうが巻き込まずに済むので幾分か安心した。そして夜明け前、読心術で読み取った霜月からの指示を思い出していた。



『瞬、これから玄磨の取り巻きを半分でいいから始末してくれないか?どんな方法でも良いよ。確実に任務をこなしてね。』



つまり、任務優先で確実に始末できる方法を選べと言うことなので暗殺になる。場所も時間帯も条件がないので相手が寝ているところが一番都合が良い。昨日霜月と諒と話した通り四人だった。もう一チームは別のところにいる。おそらく玄磨が一番強いはずだから他のやつより強いやつがいれば逃げれば良い。期限も言われてないので、半分出来ないなら次の日に残りを探せば良い。四人もいるので一撃で倒すのは難しいがなるべく気が付かれないように意識を飛ばすか口を防ぐしかない。辺りは暗くなった。



四人は固まって寝るようだ。

厄介だな。



瞬は気配を消しながら川から汲んだ水を木の葉に垂らす。しばらくすると一人の頬にポタッと垂れる。頬にぴちゃっと水滴がかかると寝ぼけながらその男は手で頬を撫でて拭いた。しばらくすると尿意を感じたのか。立ち上がって森の中に入る。瞬は音もなくついていくと相手はズボンを下ろし、さあ始めるぞというところで首をぎゅっと絞め意識を飛ばしてから、布で口を覆い喉を掻っ切る。完全に動かなくなった相手をゆっくり下ろす。そしてその男の服を着ると残りの者が寝ているところに戻っていった。



瞬は横になると様子を伺った。他の者は瞬が入れ替わったのに気がついて居ないようだ。左隣に寝ている者に近づくと短剣で脚の腱を切った。切れたのは右足だけのようだ。その者は苦痛の声をあげた。その声と同時に右隣の者の脇腹にクイナを刺した。その者も苦痛の声を上げる。一番遠くに寝ていた者も飛び起き非常事態に混乱している。

瞬はすかさず手裏剣を投げるとその者には当たらず奥の木に刺さった。



「刺客はこの森の奥に居るぞ!」



瞬は大きな声を出しながら手裏剣を投げた方面を指差した。その者は一瞬ちらっと森の中を一瞥した瞬間、瞬からハイキックを頭にもらいどさっと倒れる。間合いに入っていた脇腹を刺した男には後ろ蹴りを食らわす。脇腹をしれた男は苦しそうだった。息をぜーぜーしている。すぐに戻ってハイキックを食らわせた男が起き上がる前にその男の口の中に手を入れ反対の手に持った短剣で舌を切った。そして何かを飲ませる。



昼間は烏斗の記憶で見た蛙を探した。運良く見つかったので毒を採取していた。先程の腱を切った時の短剣、脇腹を刺したクイナにはその毒を塗った。舌を切ったやつには直接飲ませた。毒の効きが遅く苦しそうなやつは首を切ってやった。全員がこと切れていることを確認すると最初に始末した男の元に戻り、服を戻してやると自分の服を持つと近くの川に行ってみそぎをしてから着替えた。



諒は瞬きもしていないほど目を見開き、瞬から目を離さずに見ていた。初めて会ったときから今までで見たこともない鋭く冷たい目をしてまるで別人、暗鬼にふさわしい所業だった。知らない目。あの目で僕は見られたらどうなるんだろう。

霜月の力で瞬は一度もこちらを見ることはなかった。それでも音を立てないように動かず静かに見守った。目を反らしてはいけない。

これが瞬の日常だったのだろう。過酷で残虐な任務を完遂させる重圧、ずっと虚しさや孤独感を抱えていたのではないか。心の中がぐちゃぐちゃになった。なぜか感情が溢れてくる。



だめだ!



諒は下唇を噛み耐える。下唇を強く噛みすぎて血がつーっと流れたがそれにも気づかず瞬を見つめていた。

瞬はずっと前から闘っていたのだ。自分は強くなることでしか瞬の隣に立つことは出来ないと強く感じた。守られているのではなく隣で戦う仲間になりたい。

玄磨を連れ戻せという条件だが諒は霜月の言う通り自分の手で倒そうと心に固く決意した。



霜月は横にいる諒を盗み見していた。諒の目がカッと開き見逃さないようにしているのが分かった。

瞬が浸かっている世界はこれなんだと少しでも諒に伝えたかった。そして瞬の隣に、果ては瞬と共に僕の元へ這い上がって来て欲しい。その足がかりにしてもらわなきゃ始まらないよと諒に対して思っていた。

瞬は暗殺の鬼と呼ばれ冷血極まりないと言われている。果たしてそうだろうか?そんなやつが死へ向かう苦しさから解放するだろうか。



「諒、ここから離れるぞ」



霜月はふむと首を捻っていた。

玄磨とその仲間について違和感があったのだ。

ある程度瞬の暗殺現場から離れると懐から包みを諒に渡しながら指示を出す。



「諒、そこに見える古い寺を借りよう。そのうち瞬が帰ってくるから必要ならこれを食べるように。それと僕はこのまま出るから休んでおいて。」

「霜月さん!あの、僕は瞬と同じくらい強くなれますか?」



【次回予告】

次回、諒は瞬の暗殺している姿を見てどんな決意をするのでしょうか?

次回の作者にすみイチオシの台詞↓

「やめてって泣いても今回は止めないからな。」

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