第7話 玄磨との闘い
諒と玄磨は戦い始めた。
諒が
「ひゅー、思ったより硬ーな!」
玄磨が弾んだ声で言う。がさっと木の横の草に諒は突っ込んだ。
玄磨の能力は粘着とでも言うべきなのか。先程使ったのはくっつく能力で触った物にベッタリとくっつく。その力は壁を歩くのも可能だ。それをいきなり解除することもできる。
玄磨との身長差は30センチはあるが瞬よりは低い。ガッチリとした筋肉というよりはきゅっと締まっていてひょろ長い。
玄磨は右手を後ろに引いて
すぐさま木に到着した。玄磨は諒と間合いをぐんと詰める。諒は見当たらない。上から声がする。
「切雨」
「いってー!」
細い刃の雨が降ると玄磨が声を上げた。細い刃の雨は玄磨の皮膚の表面についていた。
また粘着で刃が体中にくっついただけだった。玄磨は粘着を解除するとぱらぱらと細い刃は落ちた。
「お前すげーじゃん。もう使えるようになったのか!」
玄磨は諒の攻撃に感心していた。
諒は思考をフル回転させていた。能力の相性は良くない。切り札である切雨のような攻撃は玄磨には効かない。
それでも何か打つ手を考えるしかない。
諒は走りながら玄磨と距離を取ると布を拳の1/4ほどの大きさに切ると諒は言う。
「
その布の破片は刃に変わると矢のように玄磨の方へ飛んでいく。少し退屈そうな声に変わる。先程と同じように粘着で身体にくっついただけだった。
「へぇ、横にも飛ばせるのか。便利だけど、俺、全部防げるんだよなぁ。俺もちょっと遊ばせてもらうよ!」
玄磨の粘着紐が飛んでくる。ちょうど諒の右手刀にくっついて玄磨の方にぐんっと引かれる。諒は飛んでいった先で玄磨の膝が見えた。みぞおちを硬化させようとすると、玄磨の膝と諒のみぞおちに粘着紐がくっつくと勢いよくお互いが近づき、玄磨の膝は諒のみぞおちにぐっと食い込んだ。
息ができない。
その隙に諒の左脇腹にもボディブローが入り諒は苦しそうな声を上げる。
「ぐあっ!」
そうしている間に玄磨は右手刀に付いていた粘着紐の先を近くの木の枝に変えた。諒の右手刀が動かなくなった。玄磨は諒に正面からパンチを繰り出す。諒は首を左右に振り攻撃を避けた。
「前より器用になったな。じゃぁこれはどうかな?」
玄磨がフックを繰り出すと諒は左からフックが迫るのが見えた。膝を着いてしゃがんで避けると、下に落ちていた葉を左手ですくい上げ少しだけ切り大きな破片にする。
すぐさま声を上げる。
「群矢」
その破片が刃に変化すると木の枝の方に飛んでいった。木の枝は複数の刃に切り刻まれ粘着紐の付いた木の枝は切り落とされた。諒は木から枝が切り離されたのを確認すると右手刀をフックのように動かし木の枝は弧を描きながら玄磨に飛んでいく。玄磨は粘着を解除すると飛んできた木の枝に新たな粘着紐をくっつけ、付けていた左手を前に動かし木の枝を玄磨の前方に落っことした。
「良いねえ!俺もノってきたよ!」
玄磨はまた諒の右手刀に粘着紐を付けると遠くの木の枝にくっつけた。また玄磨の手から粘着紐が出てきて今度は諒の方へ飛んでくる。諒は右へ避けて玄磨が間合いに入ってくると右手刀を振り上げて玄磨の首から胴体に振り下ろす。実は粘着紐をまた手刀につけられる前に布を手に巻いて刀を作っていた。刀と鞘のような二重の構造で外側の鞘の部分も刃になったような作りだった。玄磨の粘着紐は外側の部分にくっついたので右手刀を振り上げた時鞘から刀が出たような動きになった。玄磨は気がついてすぐに避ける体勢になったが諒の手刀がかすり、手刀の通った箇所から血がたらっと垂れた。すると急いで玄磨は木の上に登った。
「いってー油断した。」
玄磨は木の上から粘着紐を諒に飛ばしてきた。諒は左手刀を粘着紐の前へ差し出す。また刀と鞘の作戦をすれば大丈夫だと諒は考えた。手刀に粘着紐が巻き付くと実はもう一本重なっておりもう一本の粘着紐が手と胴体を縛る。
「くっ」
諒は思わず声をあげた。
玄磨は木の枝の上から嬉しそうに声を上げる。
「お前がこんなに強くなってて驚いたよ。
⋯⋯あーでも疲れたし傷の手当ての前に先に終わらせちゃおうか。」
諒は縛られたままだ。玄磨の方を見上げている。諒は叫ぶ。
「群矢・遊舞!」
先程の攻撃で散った大きめな破片の刃が玄磨の木の枝の付け根に刺さる。
しかし今度の攻撃は破片の刃は枝から離れると不規則な動きをして何度も枝を切りつけた。するとバキッと音がして枝が折れて玄磨が落ちてくる。玄磨は急いで粘着を解除する。玄磨が粘着を解除した瞬間、諒は声を上げる。
「
大きめな破片の刃が玄磨の身体の太い血管が通っている場所などの急所をめがけて玄磨の身体に集まった。
どさっと玄磨が地面に落ちた。諒を縛っていた粘着紐はもう無くなっていた。急いで玄磨に駆け寄ると馬乗りになって手刀を喉元に当てると横に引き切ろうとした。
「諒、見事だ。そこまででいいよ。」
諒は後ろから声がかかるのと同時に霜月が諒の肩を押さえた。
「実は集刃の時にあのまま切られちゃうと致命傷で玄磨が死んじゃうから切れたように見せかけたんだ。玄磨から血が出てなかったでしょ?あれは僕の力。」
霜月は幻術を解くと玄磨は意識がなかった。玄磨の様子を見た霜月はちらりと諒を見た。
「諒、玄磨に何したの?」
「これは遅効性の痺れ薬。僕が玄磨の身体を斜めに切った時に刃に塗っておいたんだ。僕の里は皆毒には詳しいけど痺れ薬を使う人はあんまりいないから毒の症状が出なくて油断したんだと思う。
⋯⋯毒を盛ったほうが早いから痺れ薬を使う人ってあんまりいないの。」
「そうか、諒よくやった。」
諒は口元を緩め少しにこりとした。霜月は先程の戦いについて褒めた。
「玄磨の粘着質な力に木の枝を切り粘着紐を使えなくする、前もって刃の破片を散らしておいて後の攻撃に備えたのも良かった。特に最後の部分、わざと捕まり玄磨を木の枝に誘導して枝を切り落とし玄磨が粘着を解除せざるを得ない状況を作る。そしてその粘着を解除する一瞬と集刃のタイミングを合わせたのは成長したね。」
霜月は右に向き直った。
「さあ諒、行こうか。向こうで瞬が待ってる。」
二人は瞬と合流した。瞬の隣には縄で縛られたままの玄磨の仲間がいた。玄磨は縄で縛られて霜月の肩に担がれている。諒は瞬の姿を見つけると急いで駆け寄り、こう伝えた。
「瞬!僕、玄磨を倒したよ!」
瞬は霜月に担がれている玄磨を見て、諒に向き直ると瞬は諒にニカッと笑った。
「すごいじゃねーか!諒、よくやったな!」
それを聞くと諒は満面の笑みになった。霜月は諒を見ると誰が見ても嬉しそうな顔をしていた。霜月は口を開けた。あれ?僕も同じようなこと言ったんだけどな⋯⋯自分の時と瞬の時との諒の喜びようが違うなと心の中はモヤモヤしていた。
諒と瞬は霜月の変化に気が付かなかった。
【次回予告】
次回は情報屋の登場です。忍者といえば情報が大事なのでどこから仕入れているんだろう⋯。
次回の
「⋯⋯こんな上物用意してきて何事かと思えば⋯⋯悪いがいくら積まれても話すこたぁねえ。」
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