Act6.「逆転」

 それからのリリーとサクラは、以前と立場が逆転したようだった。


 サクラはわざとリリーを周囲から孤立させる立ち回りをしたり、リリーから嫌がらせを受けているように見せかけたり、リリーの根も葉もない悪い噂を流布した。人々の信頼を勝ち得ているサクラのそれらは、以前のリリーとは威力が段違いだった。


『やっぱりこれが本性なのね』

『私はずっと疑っていたわよ。あのリリー様が、そう簡単に変わる訳ないもの』

 人々のリリーへの脆い信頼はすぐに崩れ、一月経たない内に、リリーは再び浮いた存在となり、自信を喪失する。


 サクラとユリウスとの距離は、日に日に近付いていた。ユリウスの心変わりを目の当たりにすることが怖かったリリーは、彼を避ける日々に戻っていった。心のどこかでは、まだユリウスの気持ちが自分にあると期待していたリリーは、暫くして二人の婚約の噂が流れ始めると、深い悲しみに溺れた。


 人々は、将来有望な聖騎士と聖女の婚約を祝福した。


 リリーの恋心は一度咲いてしまっただけに、以前の失恋よりも耐え難いものだった。サクラの義姉である以上、これからも幸せな二人を傍で見続けることになる。あまりの苦しさに、どこか遠くへ姿を消してしまおうと思った。


 ――しかし、当のユリウスはサクラとの婚約を受け入れてはいなかった。


 婚約はサクラが父親に頼み込み、当人同士の気持ちが通じ合っていると嘘を吐いて、一方的に押し進めたものであるらしい。ユリウスは立場上慎重にならざるを得なかったが、婚約式の最中、泣きながら屋敷を出ようとするリリーの真の想いに気付き、その手を掴んだ。


 彼は皆の前で、リリーに愛を誓った。

 

 激昂したサクラは、感情のままに本性を現した。驚く人々の目の前で、ようやく証拠を掴んだユリウスの仲間達と、リリーを信じ続けた数人の神官達によって、サクラの数々の悪行が暴かれる。


 リリーはその展開に覚えがあった。


 ……だから、そこから先がどうなるかも予想が付いた。


 嫉妬に狂ったサクラは禁術を用いてリリーを呪い殺そうとし、リリーを守る彼女の聖騎士によって呪いを返され、死の呪いに身を蝕まれた。聖女でありながら悪の禁術に手を染めたこと、嫉妬から義姉を手にかけようとしたことで、サクラは呪いで残り少ない生を、孤独に地下牢で過ごすこととなる。

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