第52話 誤解
「姫様、しっかり、しっかりなさってください」
中隊長さんが私に言う
私は、指さす
指先さえ震える
「・・・あれが、ジェラルド・ハミルトンの首です・・・」
「・・・」
中隊長さんが息をのむ
「あとはどうか・・・お願いします」
「・・・はい、あとはお任せください、姫様」
良かった
これでやっと終わった
やっと
アーネストに
・・・ご主人様に、会いたい
「中隊長さん、お願いです、馬を一頭貸してください」
「馬?どちらへ行かれるのです?」
「ご主人様のもとへ、私を待っていますから、ご主人様が」
「しかし、姫様、少し休んで、陛下への知らせなら我らが」
「いいから!お願い!」
「しかし・・・そのお体では・・・」
「お願い行かせて!お願い・・・お願い・・・」
お願いだから
私をご主人様のところへ行かせて
「わかりました・・・少々お待ちを」
そう言ってご主人様は何やら他の人と話し出した
他の兵士が私に羽織る布をかけてくれた
「ありがとう・・・」
私がそう言うと、その兵は
「いいえ・・・」
痛々しい目でそう答えた
中隊長さんがこっちに戻ってくるのが見える
「姫様では、今一番速い馬をこちらに連れてまいりますので、今しばしお待ちを」
「はい・・・」
それから数分して、一番早いという馬が連れてこられた
私は説明もそこそこに、馬に飛び乗った
「姫様、慌てないでくださいませ」
「ごめんなさいでも急ぐの、あ、そうだ、中隊長さん、ハサウェイさんは責めないであげて、私が脅して橋を上げさせたの、お願い、ハサウェイさんを」
「承知しております、よくやった、そう言っておきました」
「ありがとう、じゃあ」
「お待ちください、護衛を」
「ごめんなさい、急ぐの!」
私はそう言って馬を走らせた
街道は道なりになっている
一本道だ
迷うことはない
やっと
やっとご主人様に会える
雨が上がって月明かりが道を照らす
私はそこを全力で馬を走らせる
「お願い、がんばって、あなたもいっぱい走って大変でしょうけど」
私は馬にそう話しかける
早く
早くご主人様に会いたい
早く
早く
それしか考えられない
道なりを必死に走って、領主の館が見えてきた
ああやっと
やっと戻ってこれた
人がいっぱいいる
街へ行った人たちも戻って来てるんだろう
「姫様、いったいどちらに、陛下が」
「ごめんなさい待って」
私は馬をゆっくり歩かせ、降りた
「姫様」
「ご主人様は?ご主人様はどこ?」
「陛下は屋敷に・・・姫様お待ちを、一体何があったのか・・・」
私は走り出した、屋敷に入る直前、指輪を思い出して立ち止まって、指輪を外した
これは、ご主人様に見せない方がいい
そしてまた走り出した
「姫様!?いったいどちらに」
また同じことを言われる
私は
「ごめんなさい、急ぐの」
とだけ答えてお屋敷に入っていった
会える、もうすぐご主人様に会える
どこ?
「姫様?いったい今まで」
「ご主人様は何処?」
「陛下は」
そう言って兵が指さすのは広間
ああやっと、やっと会える
私のご主人様に
「姫様」
「ありがとう」
私は広間に入った
入るとすぐ、ご主人様と、騎士たちがいた
ご主人様の高い背、美しい背中
「ご主人様!」
私がそう呼ぶと、ご主人様が私に振り向いた
髪もぼさぼさで、服はあちこち擦り切れて破れて、泥まみれになって汚れて、今の私はご主人様に抱きしめてもらってはいけない、そんな思考が一瞬浮かぶ、でも、足は止まらない
私はそのまま、ご主人様の腕に飛び込んだ
「ご主人様、ご主人様、ご主人様」
「アリシア・・・」
ああ、ご主人様のお声だ
私のご主人様の
やっと、やっと帰ってこれた
ご主人様がそっと私を抱きしめてくれる、大きな手大きな腕で
「ご主人様・・・」
もっと強く抱きしめてほしくて私はご主人様を見上げる
・・・キスもしてほしい
「・・・」
ご主人様はじっと私を見つめている
「・・・ご主人様?」
ご主人様のご様子が変なのを私はやっと気づいた
「なぜ、俺から逃げた?アリシア」
低い
抑揚のない、それでいて良く通る美しい声で、ご主人様が私に言った
私は、まず声が、上手く出せなかった
それから、震えだした、全身が
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