第51話 背水、再び

伯母様

たった今、伯父様がそちらへ向かわれました

伯母様がいなくなられてから、伯父様はずっとずっと泣いていらっしゃいました

ずっとずっと伯母様に会いたくて、泣いていらっしゃいました

ですからどうか、優しく伯父様を迎えてあげて下さい

もう二度とお二人が離れることのないように

絶対に離れてはいけないお二人が、二度と離れることのないように

どうかその手を強く握って、今度こそ、離さないであげてください

天国で、今度こそ、お二人がずっとずっといつまでも永遠に、一緒でいられますように

どうか、どうか・・・




・・・・アーネスト

アーネストに会いたい

アーネストのそばにいたい

他には何もいらない

アーネスト

あなたのそばに、私は、私は



・・・ダメだ、アーネストのことを思うのは、後だ

最後の最後に、アーネストのことを思うんだ

それまで私は

最後の最後の瞬間まで私は、私のやるべきことをやるんだ


私は、残った三千の反乱軍を見る

私が見ると、彼らは、私を恐れた

まるで幽霊でも見るように

死神でも見るように

そうだそれでいい

私を恐れろ

私だ

私がお前たちの死だ


私は剣を引きずりながら、橋の手前まで戻る

反乱軍は誰も私に手を出さない

私はゆっくりと歩いて、橋の手前まで戻った

そしてそれから、長剣とスモールソードを両手に持ち、彼らに向き合った


さあ来い

これからお前らを削る

一人でも多く道連れにしてやる

さあ、さあ来い

ジェラルド・ハミルトンを殺した女だぞ、お前らの仇だ、さあ、かかってこい


私と彼らは数十メートル間を挟んで対峙する

私は彼らが動いてくれないと正直困る、私はもう、動くだけの体力、魔力がないから

でも彼らはじっと動かず、私を見ているだけだった


少しすると、何か聞こえてきた

地響きが

大軍の地響きが、私の後方から、橋の向こうから

でも私は振り返らない

じっと反乱軍を睨み続ける

やがて、掛け声とともに、橋が下ろされる気配と音がする

でも私は振り返らない

姫様と、呼ばれた気がする

でも振り返らない

橋が完全に下り、大勢の人が渡ってくる気配がする

やがて私の後ろから、大勢の兵が、走って、私の左右に走っていく、反乱軍を、取り囲んでいく

「姫様、姫様」

「・・・中隊長さん?」

「はい、私です、よくぞ、よくぞご無事で・・・約束の援軍、6000人、連れてまいりましたぞ、姫様」

それを聞いて私はやっと、両手から剣を離すことができた

そして地面に両膝をついた


雨は上がり、もうすっかり夜になっていた

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