第38話 闇に堕ちた剣神
「ジェラルド・ハミルトン」
「ふふっ、ずいぶんと、強気な目をするようになったな、アリシアよ」
この不遜な態度
間違いなくジェラルド・ハミルトンその人だ
「一年前のお前は、私に魔力を封じられ、なにもかもを諦めて、私に怯えることしかできない女だった
今のお前は、魔力は使えないはずなのに、目に光が戻っている」
「・・・」
そうかもしれない
一年前の私は、この男の言いなりだった
何もかもをあきらめていた
今の私は立ち向かえている
・・・でも、体は震える
この男に怯え始めている
「・・・ふむ、それでもやはり、少し私に怯えているようだなアリシア」
立ち向かえ、負けるな
「・・・あなたは死んだと思っていた、死体も」
「あれは私の影だよ、アリシア」
「・・・あなたの狂信者ですか・・・」
ジェラルド・ハミルトン公爵
この国一番の剣士、救国の英雄
数々の伝説を持つこの男を慕う人は多い
自分が身代わりになる、そう思う人がいてもおかしくはない
「一体だれが、あなたを殺せたのか
・・・あなたを殺せる人なんているのか
あなたより強い人がこの世に・・・
私はそれを不思議に思った、でも、それ以上考えることはしなかった
・・・そういえば、私の魔力を封じた呪紋はなぜ消えたのですか?」
「私が生きている、そうお前が思う可能性を考慮してね、遠隔で術式を解呪したのだよ
いつでも解除できるレベルの術式にしておいたのはそのためだ
お前はそのことを気づかず、二度と私から逃げられないと思い込んでいたようだがな」
「・・・」
遠隔で簡単に解除できる?
そんなレベルのものだったの?
私は、この男が死なない限り一生逃げられないと思い込んで・・・
「お前はあれを二度と解呪できないものだと思い込んでいたようだが、
お前の心は完全に折れていて、私から逃げ出す気力などなかったからな」
「・・・あなたが死んだと思った私は、歓喜したよ、ジェラルド・ハミルトン」
悔しい
「そうか、ぬか喜びさせてすまなかったな、アリシア」
豊かな髭を揺らしてこの男が笑う
私は唇を噛む
この男の手のひらの上で踊らされていただけだった
だが今はやらないといけないことがある
この男が何をしようとしているのか、確かめる
「・・・何をしようとしているのですか?」
「おや?私のすることにお前は関心を持っているのかな?
一年前のお前では考えられないことだ」
「何をしようとしてるのです?」
「なに、ただの謀反だよ」
顔色一つ変えずこの男は答える
「・・・一年前、あなたが謀反をしたと聞いた私はびっくりした
あなたが謀反を企てていることさえ私は知らなかったから」
「私も、お前の弟があんなに早く動くとは思わなかった
お前を王都へと戻したのは、恭順の意思を示すためだった
数か月でもお前を王都にいさせれば、謀反の意思などないとと誰しもが思うだろう
そう思ったんだが、見通しが甘かった
お前たちの父親は愚かだが、お前の弟は違っていた
・・・私の上を行く男だ」
この男が私の弟を評価すること、それが私は怖い
こんな恐ろしい男から好敵手などと、認められないでほしい
「大した男だあれは
昔から、王の器を持つ男だとは思っていた
だがあそこまでとは思わなかった
何もかも、この私の上を行っていたよ・・・見事だった」
怖い
この男から好敵手なんて認められないでほしい
「私ができることは、私の死を偽装するぐらいのことだけだった
・・・お前の弟はしかし、詰めが甘かった
死体を、自分で確認しなかった
ずいぶんと私に会ってないし、影は私にそっくりな男を選んでおいたが、あの男なら見抜いていたかもしれない、だがあの男は、自分で確かめなかった
もし自分で確かめていたら、あの男は今も私を追わせていたろう」
話を
アーネストから話をそらさないと
「私をどうするつもりなんですか?」
「ふむ、どうしようか、アリシア、君はどうしたいかね?」
帰らせてください、そう言えばもしかしたら帰らせてくれるかもしれない、そんなことを思わせる気安さでハミルトンが言う
だけど、帰らせてもらえるはずがない
「・・・」
「ふむ、では私が決めてあげてよう
君にはこれからわが軍に加わってもらう
王女であり、戦姫、と呼ばれた君直々に反乱軍に加わってもらえれば、兵たちの
士気はうなぎのぼりになるだろう」
何を言っているんだろうこの人
「バカバカしい、私があなたに協力するとでも?
それに、私の魔力は封じられている
今の私は無力だ、何もできない」
「それは問題ない、安心しなさいアリシア」
そう言って、ハミルトンはポケットから何かを取り出す
「・・・指輪?」
「そう、指輪だ、この指輪は面白い機能を持っていてね
あらゆる魔法術式を無効にするのだよ
たとえば、魔力封じとかね」
「・・・」
そんなものがあるのか
ではこの男は本気で私を戦力に加えるつもりなのか
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