第39話 生涯ただ一人にしかかけられない魔法

「・・・そんなものがあったところで、私が協力するとでも?」

「いや?そんなことは思わんよ」

「じゃあどうやって?私に隷従魔法でもかけますか?

もしそのおつもりなら、上書きにはかなり手こずると思いますよ?

私は、アーネストにすでに隷従魔法をかけられていますから」

「・・・なに?」

「ですから、私にはすでに隷従魔法がかけられているので」

「かけたのか、あれを、お前の弟は、お前に」

ハミルトンは、なぜか少し狼狽えていた

かまわず私は話を続ける

「ええ、私はあの方の、奴隷ですから

絶対に逆らえないように、隷従魔法をかけられました

ですから、あなたがこの隷従魔法を上書き」

私が言い終わらないうちに、ジェラルド・ハミルトンは私の胸元をボタンごと剥いだ

ブローチは外れていないけれど、体が一瞬のうちに、硬直した

恐怖がしみついていることを私は思い知った

だがハミルトンはそれ以上私になにもしないで、私の胸に刻まれた隷従魔法の呪紋をじっと見つめていた

「・・・なんという、あの男」

それだけ言うとハミルトンは、笑いだした

「なんという、実の姉であるお前にこれを、この魔法をかけたのか、あの男は・・・

はははは、アリシア、お前の弟は狂っているな!

とんでもない男だ!なんという男だ!なんという狂気!

実の姉にこれをするとは!

まるで私、いや、私以上ではないか!はははははははは!!」

話が見えない

でもなんだかどこか楽しそうに、嬉しそうに、ハミルトンは笑っている

「何を言っているんですかハミルトン?」

「そしてお前も、そうだアリシア、お前はそれを奴隷が逆らえないようにするための魔法だと思っているのか?」

「?もちろんそうでしょう?私を奴隷にする際に、ご・・・アーネストは使いましたから」

「ではお前は、知らないのか、それがどんな魔法か、奴隷に賭ける魔法だと思っているのか」

「・・・違うのですか?」

「全然違う、それはなアリシア、教えてやろう・・・おっとそのまえに、アーネストはそれを使ったか?

お前に隷従を使ったのか?」

「いいえ、まだ使われたことはありません・・・なんのことをあなたは言ってるんですか?」

「・・・そうか、使ってないか、そうか・・・」

ハミルトンは、目を細めた、優しい目を、何かを懐かしむような目を見せた

「そしてお前は何も知らず、だけどそれを受け入れたのだな、

お前は何も知らないくせに、その魔法を受け入れ、成立させたのだな

・・・お前の弟はずいぶんな自信家だ、お前に愛されていることを微塵も疑ってはいない

そしてお前もまた・・・」

「さっきから一体何の話をしているのですか?」

「アリシア、その魔法、隷従魔法は、お前が思っているようなものではない

人を奴隷にするためのものではない

それは生涯、一度きり、たった一人の相手にしか使えない魔法だ

二度と上書きすることなどできない、唯一の魔法なのだよ」

隷従魔法のことを私は良く知らない

「奴隷にかけるものではないのですか?」

「全然違う・・・違うのだよ、アリシア、それはかけはしても発動しない、使わないことが証となるのだ」

「証?なんの証ですか?」

「・・・」

「なんの証なのですか?ハミルトン」

「・・・」

ハミルトンは答えない

「・・・私も、ただ一人だけ、その魔法を使った、そして、彼女の生涯で一度も私はそれを使わなかった・・・

それが証だったから・・・」

「・・・」

「使えばよかった、使ってそして、有無を言わさず、城の奥深くに閉じ込めてしまえばよかった・・・

そうするべきだった、私はそうするべきだった・・・」

「・・・誰の事ですか・・・?」

「・・・」

伯父様は答えない

だけど、私はわかった

伯母様だ

伯母様のことを伯父様は言っているのだ

隷従魔法を、昔、伯父様は伯母様にかけたのだ、おそらくは


だって伯父様は、伯母様の葬儀で見せたときと同じ目を、していたから

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