第37話 回想 伯母さまからのアドバイス
「アリシア、あなたに一つ覚えておいてほしいことがあるわ」
「なんですか伯母様?」
伯母様はにっこりと笑う
「ジェラルドには内緒よ?・・・覚えておいてほしいことがあるの、騎士として」
私は身を乗り出した
「教えてください伯母様」
伯母様は笑う
「いい?ジェラルドには、あの人には内緒よ?守れる?」
伯父様に内緒
怖いな少し
「はい、守ります、伯母様」
「女同士の秘密よ、アリシア、守ってね」
優しく
でも真剣に伯母様が言う
「これからあなたが行く先々で、あなたはいろいろな困難に出会う、と思うわ」
「・・・はい」
私もそう思う
でもやさしい伯母様からそう言われると、いっきに現実感が増して、怖い
「その中にはもうどうしようもできなくて、あなたは逃げたいと思うこともたぶん・・・ある
その時あなたはきっと、あなたはそうね、あなたはきっと、アーネストを思うでしょう
アーネストに会いたいと、思うでしょう、アリシア」
そんなの知っている
いつも私は、アーネストを思うから、いつも、いつだって
「伯母様、私はいつも、アーネストを思っています」
今こうしている時も
アーネストのことを私は思う
「・・・アーネストのことを思うと、会いたくなっちゃうでしょう?」
伯母様が優しく笑いながらそう言う
「はい」
会いたい
今だって遠く王宮にいるアーネストに会いたい
でもそう考えると
「でもそう思い出すと、何も手につかなくなっちゃうでしょう?」
伯母様も伯父様みたいになんでこちらの考えていることがわかるのだろう
「・・・はい」
「アーネストに会いたくて会いたくて、それしか考えられなくなっちゃうでしょう?」
「・・・はい」
あれ
泣いてる、私?
「泣かせちゃったわね、ごめんねアリシア」
伯母様がそう言って、私の涙を拭ってくれる
「ごめんね」
会いたい
会いたいアーネスト
私バカみたいだ
自分から伯父様伯母様に会いに来てるのに
遠く離れた王宮にいる弟に会いたくて会いたくて泣くなんて
でも、会いたい
アーネストに、会いたい
「ごめんねアリシア、ごめんね」
少し泣いた後、伯母様は話を続けてくださった
「・・・自分の状況が、辛ければ辛いほど、大好きな人を、一番大切な人を、私たちは思うわ、アリシア
会いたい、ただ、それだけを願う」
「はい、伯母様」
「あなたはきっと、この先、そんな場面に遭遇する、騎士になりたいなら」
「・・・」
「でもねアリシア、そんな時は、自分にこう言い聞かせるの
『あの人を思うのは、最後の時だけだって、すべてが終わる、やるべきことをすべて終えたとき、あの人を思おう』って」
「・・・」
「やるべきことをやり終えるまで、大好きな人を、一番大切な人を思わない
目の前の、自分のやるべきことだけを、見つめるのよ、アリシア」
「・・・そんなの、辛いです、伯母様」
そんな辛いのは嫌だ
大好きな人を思うことを自分に禁じるなんて
「いけないことですか?
いつでも一番好きな人を思っていたいことは、そんなにいけないことですか?
思っちゃいけない
そう自分に禁じないといけないなんて」
「違うわよアリシア、違うの、それは自分に許可を与えることなの
すべてが終わったら、思える
好きなだけ思える
思っていいんだって、
だからそれまで、自分のやるべきことを、やり通す
最後の最後に、大好きな人を、一番大切な人を、思うために、胸を張って、会うために」
「・・・」
「それができれば、アリシア、あなたはきっと誰よりも強い騎士になれるわ、きっと」
「伯母様も、伯父様をそうやって思ってきたんですか?」
私が聞くと、伯母様はにっこり笑った
「ええそうよアリシア
私はそうやって、ジェラルドを思ってきたの・・・ずっと昔から、今のあなたとアーネストよりもっと小さいころから・・・
だから、だからがんばれたの、だから、私はなんでもできたのよ、アリシア
強くなれたの、いくらでも」
「・・・」
「アリシア、覚えていてね、私の言ったこと、思い出してね、いつか・・・ジェラルドには内緒よ?
あの人は、私がいつでもあの人のことで頭がいっぱいじゃなきゃ、怒るから」
「じゃあ伯母様も、アーネストには内緒でいてください」
伯母様はまた優しく笑った
「ええ、わかったわ、アーネストには内緒、女同士の約束よ」
「はい伯母様、女同士の約束ですね」
そう言って私たちは笑った
それから少しして伯父様が帰ってきた
伯父様はその日、私と伯母様が顔を合わせてはにんまりするのを見て、
ずっと不思議がっていらした
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます