第35話 嫌だったあだ名でまた呼ばれる
(本当はこの前日にアーネストはアリシアをデートに連れ出しています
二人は結婚式を通りがかったり、そこでアリシアは『なんで私はあの花嫁の人をうらやましいと思っているのだろう』と不思議に思ったりします、で、夜は花火大会
アーネストはアリシアの手を引いて歩きます
アリシアにとってはそれは初めてのデートでした
で、アリシアはそれがデートだということに気づいていません
ただなにもかもが初めてで、こんなきれいな花火は初めてで、アリシアは何もかもが輝いて見えることを不思議に思います
長くなるので省きましたけれど、前日にそんなことがあったと思ってください)
「姫様」
そう呼ばれるたびに、無視したい気持ちになる
今私をそう呼んだのは、今年王宮務めになったという18歳の女性騎士だ
「はい」
「あまり先を行かれませぬようお願いします」
「・・・はい」
私の護衛についてくれているこの騎士は、私を見下している
それは、わかる
私はこの子より7つ年上だけど、この子は、私を外見通りの精神年齢とでもたぶん、思っている
今私を囲んで護衛している騎士は5人
少し離れて、男性の騎士が10人
視察三日目
今日は、ご主人様は仕事で、私だけがこうして護衛の騎士たちと一緒に街を歩いている
私は胸のブローチを指でさする
訳あって本当はあんまり触れてはいけないものなのだけれど、ご主人様がくれたブローチ
気づくと私はこれに触れている
自分でも無意識に
昨日、花火祭りの中、ご主人様と二人で歩いた道を歩く
二人で入ったお店を横目で見ながら、護衛に迷惑にならないように私は歩く
ご主人様がいっしょじゃないならせめて二人で歩いたところを歩きたい
そう思って今日街を歩くことを希望したのだけれど、なんだか思っていたのと違う
ご主人様と一緒に歩いたところを歩けば、きっと楽しいだろう
そう思ったのに、全然楽しくない
つまらない
・・・寂しい
ご主人様の奴隷になって、毎日ご主人様に会えて、
あまつさえなぜか王妃様の部屋まで使わせてもらって
ドア一つ隔ててご主人様のお部屋とつながった部屋で毎晩毎晩眠るそんな日々
ご主人様は私はずっと一生ご主人様の奴隷で永遠にご主人様のものだって言ってくれる
ご主人様は私をずっとそばにいさせてくれる
毎日毎日が幸せなのに
たった一日一緒にいられないだけで、こんなに寂しい
午後になれば会える
そうわかっていても、寂しい
昨日は、私たち二人、平民のふりして、二人だけで街を歩いた
少し離れて護衛の人たちもいたけれど
ご主人様は腕が立つ
魔力を使わないのに、二年前の私に、もう・・・二歩ぐらいまで来ていた
あれから二年以上たったから、もっと強くなっているはず
だから、護衛から離れて二人だけで歩けた
・・・私も、魔力を封じられてなければ、と思った
そしたら剣が持てる
そしたら私も戦える
魔力さえ使えれば、私は誰にも負けないのに
そんなことを考えてることをご主人様に知られたら・・・
そんなこと思って、私は私の手を引いて微笑んでくれるご主人様を勝手に怖がっていた
剣の話をすると、ご主人様はすごく怒るから・・・
二人きりで昨日歩いたあちこち
ご主人様と歩いた一つ一つを私は思い出す
すごく嬉しくなって
そしてすごく寂しくなる
毎日毎日会っていて
毎日毎日抱きしめてもらえて
最近じゃなぜかキスまでしてもらえて
今日だって午後には会えるのに
なんで少し会えないだけで、こんなに辛いんだろう
昔の私は、そりゃアーネストに会えなくて寂しかったけれど、でもここまでじゃなかった
会いたくて会いたくて仕方なかったけれど、ここまで他の何も考えられないほどじゃなかった
毎日毎日会えているのに
なんで少し会えないだけでこんなに、私は、泣きたくなるのだろう
会いたい
ご主人様に会いたい
早く
早く午後にならないかな
そんなことを考えていたら、ドン、と何か音がした
爆発の音だ、そう思ったときには、音のした方向を見ていた
少し、煙が上がっているのが見えた
負傷者は?
・・・犠牲者は?
とっさに体が動いたけれど、騎士が私を抱きとめた
「姫様!こちらへ!」
18歳の女性騎士がそう叫ぶ
「皆それぞれ散って各自領主邸に戻ること!私は姫様をお連れする!」
「「「「はい」」」」
「姫様!早くこちらへ!」
あれ?と思った
でも私は言われるままに走り出した
私の走る速さに合わせて彼女は走ってくれる
走りながら私はさっきの違和感を思う
変だ
そう思いながら彼女は私を誘導する
路地裏に入り
路地裏から路地裏へ
私は、立ち止まった
彼女は振り返って言う
「いかがなさいました姫様?
さ、早くこちらへ」
「なんで、こんな人気のない道を選ぶの?」
「・・・」
彼女が驚いた顔をする
それから張り付けたような笑顔を見せる
「それはこちらが避難ルートだからですよ姫様」
「私が好き勝手に歩いてるのにそんなルートをどうやって想定してたの?」
「・・・さ、早く姫様こちらへ」
「さっき、なんでみんなに散るように指示したの?」
「・・・姫様にはおわかりにはならないでしょうが、我々軍人には軍人のやり方があるのですよ」
護衛は固まって護衛対象を守る
できるだけ固まって護衛対象を守る
守りながら皆で避難する
護衛の基本の基本だ
私だって二年前まで騎士だったのだ
・・・私には今、魔力が使えない
私の目の前にいる彼女は、180cm近くある
私は少しずつ、後ずさる
彼女の目は知っている
新兵が、騎士の制服を着ている私を見てまず見せる目
嘲りの目
実力でねじ伏せてもまだ、時折見せる、嘲りの目
・・・今の私には魔力が使えない
後ずさりながら、走りだすタイミングを見図る
突然、首の後ろに、衝撃を受けた
あ、しまった、そう思った
私は前に倒れかけた
でも、騎士は受け止めてくれた
一応私が怪我しないように気遣ってくれるんだ
「まったく、目ざといお人形さんですね」
ああまだそのあだ名で呼ばれてるのか
騎士だったころ裏で皆が私をそう呼んでいたことを私は良く知っている
どんなに実力でねじ伏せてもそのあだ名はやめてもらえなかった
いやだなあ
そんなあだ名いつまでたっても好きになれない
でも面と向かって抗議することもできなかった
そうしたらみんなもっと笑うから
だから私は何も言えなかった
でもやっぱりいやだなあそんなあだ名
いやだなあ
いやだなあ
そうのんきに思いながら、私は気を失った
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