第34話 回想 伯父さまと伯母さまと
「お前には二度と、剣など握らせん、二度とだ」
こんな怒った様子の伯父様は見たことがない
伯母様は、うつむいてじっと耐えている
伯父様の領土は国境付近にある
この数年、私たちの国はあちこちの国と小競り合いをしている
国境付近の領土は、国防のかなめだ
伯母様は、昔騎士だったという
女性騎士
でもその話を、伯父様は嫌う
「二度と言うなグロリア、二度と、お前はただ、俺の言うとおりにしていればいいのだ」
「・・・」
こんな様子の二人を見るのは初めてで、私はお菓子を食べる手が止まってしまっていた
お二人は言い合いをしていたわけじゃない
ただ、稽古を終えた私に、伯母様が騎士だったころの昔話をして
その流れで、
「もう一度、騎士になりたいわね」
そう言っただけなのだ
私は騎士姿の伯母様を見てみたかったので、その言葉がうれしかった
伯母様は背が高い
175cmある
スラっとしている伯母様、騎士服を着ている姿はどんなに似合うだろう
私もいつか、伯母様みたいになれるだろうか
そんなことを思った
その瞬間
ドン!とテーブルが揺れた
伯父様が、見たことのないお顔で、本当に怖いお顔で、伯母様を睨んだ
「言ったはずだグロリア、二度と剣など持つな、と」
「・・・」
伯母様も、息をのんでいる
私は二人の間に入り込めない
「俺は言った、二度と剣などもたせん、と、覚えてるな?」
「・・・はい、あなた」
「なのに、なぜそんなことを言う」
「・・・私はただ、あなたの役に立ちたくて」
「俺のためと言うのなら、何もするな、ただ家で、俺の帰りを待っていろ
それがお前の務めだ、グロリア」
「私はあなたを、守りたくて」
伯母様の声は震えている
じっと俯いている
「余計なお世話だ、バカにするなグロリア」
「私は」
「お前は俺の妻だ
夫である俺の言うことを聞いていればいい
余計なことをするな」
「・・・」
「お前には二度と、剣など握らせん、二度とだ」
「・・・」
「二度と言うなグロリア、二度と、お前はただ、俺の言うとおりにしていればいいのだ」
「・・・」
「わかったなグロリア、わかったら返事をしろ」
「・・・はい、あなた」
「・・・そうだ、それでいい」
「・・・」
伯父様と伯母様のやり取りに私は何も言えずただそこにいるだけだった
ふっと、伯父様が私を見る
そして目をそらして、椅子から立ち上がった
「・・・」
「あなた、どちらへ」
「・・・狩りに行ってくる・・・そう遅くはならない」
そう言って伯父様は振り返らず出て行った
「・・・ごめんなさいねアリシア」
「・・・伯母様」
伯母様は優しく微笑んでくれた
「大丈夫よ、あの人は帰ってくる頃には元に戻っているわ、元の優しいあの人に
だから安心してアリシア」
「・・・はい、伯母様」
「・・・アリシアは、アーネストが好きなのよね」
「はい」
「アリシア、あなたはきっと騎士になれるわ」
「・・・なれますか?私でも」
「ええなれるわ、きっと、なれる
アーネストを守りたい?」
「はい伯母様、私は強くなってアーネストを守りたいです、だから、騎士様になりたいです」
「なら、なれるわ、きっと、なれます、守りたい人がいるのなら、あなたは必ず強くなれます」
伯母様はそう言って優しく笑ってくれた
私も、伯母様がそうであるように、伯父様も元のやさしい伯父様にきっと戻ってくれる、そう信じた
夕方の少し前、狩りから帰ってきた伯父様は、元の優しい伯父様だった
狩りの獲物は鹿で、私は伯父様が鹿を裁く様子を間近で見た
伯父様は元の笑顔で、鹿のさばき方を私に教えてくれた
夕食時には、お二人ともすっかり元通りのいつも通りのお二人に戻っていた
それから半年後だった
伯母様が亡くなられたのは
攻め入られた領土から領民を逃すために、戦ったのだ
伯父様はその時、遠く離れた別の国境付近の領土で戦っていた
伯父様は必死で馬を走らせ伯母様のもとへたどり着こうとしてた
もう少し、もう少しで間に合う、間に合うはずだった
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