第24話 奴隷と言う幸せ

「もっとお前と、いろいろ話をしよう、これからは、もっと」

「はい、ご主人様」

「・・・」

ご主人様がじっと私を見つめる

「ご主人様?」

「・・・」

すっと、ご主人様が、私の肩を優しく抱いた

あ、と思ったときはもう、おでこにキスをされていた

「さあ、もう眠れアリシア」

「・・・」

「・・・何か、まだ、あるのか?」

「・・・そのドア」

私は、王妃様のお部屋の中にあるドアの方を見て言った

「ああ、俺の部屋とつながっている」

「王様の部屋と」

「そうだ、王である俺の部屋と・・・ここは、お前の部屋は」

私の部屋

いつか、王妃様になる人が入る部屋・・・

でも今は、私はここにいていい

だってご主人様が、私にそう命じたのだから

だから今は、ここは私の部屋、今は・・・

「アリシア?」

「あのドアの向こうに、ご主人様がいるんですよね?」

「そうだ、俺がいる」

「・・・」

嬉しい

夢みたい

「アリシア?」

「こんなにすぐそばに、ご主人様がいるんですよね」

何度も何度も探した

何度も何度も夢見た

会いたくて会いたくて

でも会えなくて

ずっとずっと会いたかった人が、すぐそこで眠る

部屋は違うけれど、私と一緒に眠る、眠ってくれる

私と、一緒に

「私、ご主人様の寝顔が見たいです」

「・・・それは」

「ダメですか?」

「・・・」

「だって、いつも私の寝顔ばっかりご主人様が見て、ずるい

私だって、見たいです、ご主人様の寝顔

・・・ダメですか?」

「・・・執務室で、お前の目の前で、ソファに横になって、寝顔を見せてやるよ」

「それもいいけど、私が言いたいのはそうじゃなくて」

「夜寝てる俺の寝顔を見たいのか?」

「はい」

「意味がわかって言ってるのか?」

「・・・ご主人様は王様だから、勝手にお部屋に入っちゃいけないのはわかっています」

「そういう意味じゃない」

「え?」

「いやその、アリシア、あのな、俺の寝顔なら、お前はそのうち毎日毎晩見るようになるよ」

「え、そうなんですか?」

「ああ、本当だ」

「いつから、いつからですか?いつからご主人様のお部屋に入ってもいいんですか?」

「・・・そういう意味じゃない」

「?」

「・・・お前が、俺を受け容れられるようになったら、その時からな、いつか」

「・・・意味が分かりません」

「ああ、それでいい、今は、まだ、俺は待つから」

ご主人様が何を言ってるのかわからない

でも、今はまだダメなのだ

私じゃなくご主人様がお決めになることだから

だから、私は言うとおりにする

私はご主人様の奴隷だから

「アリシア」

「はい」

「これからはもっと、話をしよう、俺とお前はもっと、話をしないといけない」

「・・・」

怖い

ご主人様に嫌われるのが怖い

「アリシア?どうした?」

「私を、嫌わないでくれますか?私を、嫌わないでくれますか?」

「・・・嫌うわけないだろう、お前は、俺の・・・」

ご主人様が、不意に言いよどんだ

だから私は

「はい、私はご主人様の奴隷です」

先に答えを言った

「・・・」ご主人様が、変な顔をした

「・・・ご主人様?・・・私、なにか間違えましたか?・・・」

「・・・いや、それでいい、とりあえず今は、それでいい」

「とりあえず?」

「いや、いいんだとにかく、今はそれで、それでいい、アリシア

さて、俺はそろそろ行く、お前も寝ろ、アリシア」

「はい、ご主人様」

「おやすみ」

そう言ってまた、私のおでこにキスをした

恥ずかしいけど、胸が温かくなる

この方の物だって、思える

「おやすみなさい、ご主人様」

ご主人様が、ドアノブに手をかけたとき、私は確かめたくなった

「いつか、見せてくださいね、ご主人様の寝顔」

「・・・ああ、もちろんだ、アリシア、俺の寝顔は、お前だけのものだよ」

今すごく幸せなことを言われた気がした

でもそれを確かめる前にご主人様はドアの向こうに行ってしまわれた

ドアが閉まってすぐ、私は泣きたくなった

一人は嫌だ

でも、我慢しよう

あのドアの向こうには、ご主人様がいる

私の大好きなご主人様がいる

だから、夜の闇も大丈夫

怖くない

今はもう、怖くない


私はドアの向こうをじっと見つめながら、いつしか眠りに落ちた

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