第22話 回想からの目覚めと王妃の間と

・・・夢?

・・・夢なのね、今のは

夢だったんだわ

私はもう、騎士じゃないものね

でも懐かしい

・・・


ここは、どこかしら?

なんだか見覚えのある


「お目覚めになりましたか、アリシア様」


メイドが、私に声を掛けた


「あの・・・私は、どうしたんですか?」


「・・・陛下の腕の中で気を失われて、今までずっと、眠っておられたのですよ、アリシア様」


・・・なんで『様』なんてつけるのだろう


私は奴隷なのに


「ご主人様が・・・あ」

不意に、ほほにキスされたことや、抱き上げられたこと、ご主人様の首に腕を回して、すごく近く、その声を聴いたこと、それから、いろんなたくさんの人たちに、そんな私たちの姿を見られたこと、を思い出した

「どうなさいました、アリシア様?」


「あ、いえ、あの、ここは・・・王妃様のお部屋じゃ・・・」

「ええその通りです、ここは王妃様のお部屋です」

こともなげにメイドが言う

「なんで私がここに?」

奴隷がこんなところに入っていいはずがない

「陛下のご命令です、アリシア様」

「・・・あの、私は奴隷です、その、『様』は」

「アリシア様を呼び捨てにはもうできません、誰も、もししたら、陛下直々に切り捨てになられるでしょう」

「・・・あの、ご主人様は?」

「少々お待ちください」

メイドはそう言って立ち上がると、ドアの外にいる誰かに何かを話した

そして

「すぐ、お会いできますよ」とにっこり笑って言った

しばらくして、ドアが開いて、ご主人様が来た

「アリシア」

「ご主人様・・・」

ああ

うれしい

ご主人様だ

もう私はこの方をお名前で呼ぶことができない

呼び捨てにすることなんかもっとできない

たとえ声に出さなくても、心の中で言うだけでも、

もう呼び捨てになんかできない

私はこの方の奴隷でいたい

メイドは一礼して部屋を出ていった

私とご主人様二人きりになった


「ご主人様」

「そのまま起きるな、寝ていろ、いいな?」

「はい」

ご主人様は椅子に座られた

「アリシア、良く、寝たか?」

「え、はい、大丈夫です、ご主人様」

「そうか・・・」

「あの、ご主人様」

「なんだ?」

「今日は、いろいろ、申し訳ありませんでした」

「・・・何がだ」

「・・・」

いろいろ迷惑をかけたのに、じゃあ具体的に言おうとすると、よくわからない

でも私がご主人様に迷惑をかけたのはわかる

「・・・アリシア、いいか、よく聞け、これは命令だ」

ご主人様が少し怖い目をする

「は、はい」

「・・・今日、お前が俺に謝るようなことは一つもなかった

いいか、お前は今日俺に謝るようなことは一つもなかったんだ」

「・・・」

「アリシア、命令だと、言ったろう?」

「はい、ご主人様」

「わかったな、今日お前が俺に謝らないといけないことは何もなかった、いいな?」

「・・・」

「アリシア、どうした?何か不満か?」

「・・・お茶を、ご用意、できませんでした、ご主人様」

「・・・アリシア」

「・・・申し訳ありません、でも、せっかく、ご主人様が、私を」

私を呼んでくれて、一緒にすごすはずだったのに

一緒に過ごすはずだったのに

「アリシア、何を言っているんだ、お前はこれからもずっと一緒に俺といるんだぞ?

お前は明日も俺と一緒に過ごすんだ

だから、今日のことはもう言うな」

「・・・」

「ほら、泣くな、いい子だから」

「・・・はい、ご主人様」

指先で涙を拭いてくれた

なんだか迷惑ばかりかけている気がする

「あの、ご主人様」

「なんだ?」

「この、お部屋は、王妃様の」

「そうだ、王妃の部屋だ」

「・・・奴隷の私がいては」

「黙れ」

私は硬直する

「いいから黙れ、俺の決定だアリシア、逆らうな」

「・・・」

「お前は、この国んで一番高貴な女性だ、だから、この部屋を使うのは当たり前なんだよ

アリシア、逆らうな、お前はこの部屋を使うんだ、いいな、わかったら返事をしろ」

「はい、わかりました、ご主人様」

「そうだ、それでいい・・・いい子だ、アリシア」

そう言ってご主人様は私の髪を指先で遊んだ

「・・・さあ、何か、食べられるか?簡単なものでも」

「ご主人様は、何かお食べになりましたか?」

「ああ」

「・・・」

「どうした?」

「・・・一緒に、いえ、なんでもありません」

一緒にご飯を食べたいなんて、望みすぎてる、私

自重しなくちゃ

「・・・アリシア、今、お腹は空いてないか?

何か、簡単なものでもいい」

「・・・ご飯はいいです、それより」

「それより?なんだ?」

「それより、もう少し、一緒にいて、ほしいです、私と」

「・・・」

「ダメですか?」

「いや・・・わかった、ここにいよう

・・・何か、俺にしてほしいことがあるか?」

「・・・」

「アリシア、言ってみろ」

「・・・昔の話をしても、いいですか?」

「ああ、いいぞ」

昔の話をしても、いいとご主人様が言ってくれた

もちろん自分を姉だなんてもう私は思わないけれど、それでも、ご主人様を不愉快にさせないように気を付けて話したい

せっかく、いいと言ってもらえたんだから

「昔、二年ぐらい前に、私が怪我をして、しばらく休んでいたとき、ご主人様すごく怒って」

「当たり前だ、お前は俺のものだ、俺に黙って勝手にケガなどして、怒るのが当たり前だろう」

「・・・」

「どうしたアリシア?」

「いえ」

二年前は、私は騎士で、まだ、ご主人様のあ・・・いけない、姉だなんて思っちゃいけない

でも、二年前はまだ私はご主人様の奴隷じゃなかったのに、ご主人様は昔から私を奴隷だと思っていたんだ

なんだか、おかしい

でも嫌じゃない

嬉しい

未来も過去も今も、私をご自分のものだと言ってほしい

「それで、ご主人様、私をすごく怒って、しばらく、王宮の外に出してもらえませんでした

怪我は治っても

・・・あんなに、ご主人様と一緒に過ごしたのは、本当に久しぶりで、私本当は、嬉しかったんです、ご主人様・・・騎士の仕事を休んで、みんなに迷惑を掛けていたのに」

「・・・」

ご主人様は黙って聞いてくれている

「私はあの時、早く復帰しないとってご主人様に何度も言ったけど、それを許してくれないご主人様が、私本当は・・・」

「・・・本当は?どうしたアリシア?」

「・・・本当は、すごくうれしかったんです、ご主人様

・・・・あきれましたか?私のこと・・・」

「あきれる?バカ言うな、俺のそばにいるのはお前の権利だ、お前は俺のものなのだから、俺のそばにいたいと思うのは当たり前だ、アリシア」

「でも、騎士としては」

「お前はもう騎士じゃないし、あの時だって、お前を二度と騎士に戻すつもりは俺にはなかったんだぞ、アリシア」

「・・・」

「騎士としてどうかなんて、お前は思わなくていいんだよ、アリシア」

「・・・」

「・・・アリシア?」

怒らせたくない

こんなに、いっぱい、わがままを聞いてもらっているのに

せっかく今一緒にいてもらえてるのに

ご主人様を不愉快にしたくない

でも

言いたい

「・・・私は、剣になりたかったんです、あなたの剣に、ご主人様」

「・・・俺がそんなことを望むと思うか?」

「・・・いいえ」

私は首を横に振る

「そうだ、俺は二度とお前に剣を握らせん

お前が騎士に戻ることは二度とない、アリシア」

ご主人様がそう言った瞬間

もう二度と騎士になることはないんだと思って、私は、

涙が流れた

「・・・アリシア」

「私は、剣になりたかったんです、あなたを守る剣に、あなたの剣に・・・ご主人様」










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