第20話 回想 同僚と
「反抗期、なんでしょうか?」
「そんなこと言われても私には・・・」
「教えてくださいエリック、あの年ごろの男の子の気持ちを、私は知りたい」
「いやそう言われても、王太子殿下に直接お聞きになればどうです、アリー」
「それができれば苦労はしません」
「うーん・・・」
休日
私は副官のエリックと一緒にランチをしている
相談に乗ってほしいと言ったら、快く応じてくれた
エリックは、戦闘中は『俺』といい丁寧な言葉遣いはなりを潜めるけれど、
ふだんはこうしてとても丁寧に話をする人だ
私も彼を見習いたいけれど、この人といるとまだまだだと自分でも思う
「なんか、変なんです、昔は私が騎士になるのをあの子は応援してくれてました
だから私は騎士になれた
でも最近、あの子が成人(15歳)になってから、あの子、私が騎士でいるのが気に入らないみたいなんです」
「ふーん・・・」
エリックは腕組みをして目を閉じる
「なんでなんでしょう?
この間なんか私はあの子に、剣なんか握らないでほしい、とまで言われました
そんなものよりドレスを着てほしいと」
「・・・ああ」
「え?何か心当たりがありますか?エリック」
「いや、心当たりと言うか・・・」
「なんです言ってください」
「いやその、これは、王太子殿下の名誉のために、黙秘します、マジで」
「そんなこと言わないで、心あたりがあるなら教えてください」
「いや、それは、さすがに、同じ男として、黙秘させてもらうしかないと」
「なんなんですか一体」
「いえそれ一番言いたいのは王太子殿下だと思いますよ
私は、同じ男として王太子殿下がうらやましいと同時に・・・」
「エリック?」
エリックがなんだか渋そうな目をした
「エリック、どうしました?」
「ちょ、それ、殿下にもしてますか?」
「え?何をです?」
「そうやって身を乗り出して、顔を覗き込むことです」
「?別にいいでしょう?あの子と私は姉弟なのだから」
「そういう問題じゃなくて、ああもう、殿下に同情しますよ、本当に」
「同情?なんのことですか?」
「いやだから」
「意味がわかりません、エリック」
「ああもう、とにかくこの話はなしです、アリー!!」
無理やり話を切りあげられた
それでも、せっかくの休日なので、二人で街を歩く
こうして友人が一緒に歩いてくれるのはうれしい
騎士団の部下たち数人と歩くと、どうしても私は浮いてしまう
でもこうしてエリックとだと、私は、安心して友人と歩いていると自分でも思えるから
「アリー、さっきの話ですが」
「え、さっきの?アーネストの反抗期のことですか?」
「反抗期とは全然違うものですけれど、殿下のことです」
「エリック、知ってるんですねあの態度の変化のことを」
「・・・まずアリー、私から申し上げたいのは、殿下はもう成人男性ということです
小さいころのままだと思うのはいけません」
「でもあの子は私の弟です」
「ええそうです、でも、これは、真摯に殿下に向き合うおつもりなら、
殿下を一人前の男性として認識する必要があります
子どもではなく、一人の男として殿下を見つめるのです
絶対子ども扱いしてはいけません
それに・・・弟扱いもしてはなりません
それがなければ、アリー、あなたは殿下を深く傷つけます」
「・・・意味がわからないです、エリック」
「はあ・・・」
大きくため息をついた友人に、私もなんだか情けない気持ちになる
私にはアーネストの気持ちがわからない
だからこうして相談に乗ってもらっているのに
それを子ども扱いしてはならないとか弟扱いしてはならないとか
一体エリックは何を言っているのだろう
「まあいいです、とにかく、殿下ときちんと話をして、その際、決して弟扱いしてはならないこと、
ちゃんと一人の男性として殿下を見つめること
それを覚えておいてください、アリー、いいですね?」
「はい・・・」
エリックの言っていることは全然わからないけれど、エリックのアドバイスに間違いはない
なので、意味が分からないけれど、従おう
それから私たちは少し街を歩いた
エリックの希望だ
私も同僚とこうしてプライベートの時間を共有できることは楽しい
「アリー、楽しいですか?私といるのは」
「ええもちろん、エリック、ありがとう」
剣を振るうしか能のない私は、
こうして街を歩くだけでもいっぱい発見があって、
でもやっぱり一人で歩くのは怖くて、
だからこうして一緒に歩いてくれる友人に私は心から感謝をした
なのに、
「アリー、私と結婚してください」
エリックの前を歩いてたら、急に後ろからそう言われた
前にもエリックは私に同じことを言った、
私は、もう言わないでとその時お願いした
それ以降一度も私に言わないでくれたのに
「エリック、その話は・・・」
「言わないでとあなたに言われて結構経ちました
もう一度言うには十分時間を置いたとおもいます
アリー、私と結婚してください」
「・・・・」
「私は伯爵になります
王家からあなたを迎えるには格式がたりないのはわかっています
でもアリー
騎士を続けたいと言うあなたの要望を叶えることは、私ぐらいしかできません
約束しますアリー
結婚してからもあなたはずっと騎士でいられます、私となら
私もあなたを生涯あなたを支えましょう
あなたの副官として、あなたの夫として」
勝手に話を進めていく
この人も同じだとは思いたくない
他の男たちと同じだとは思いたくない
友人でいてほしい
「エリック」
「アリー、約束します、私はあなたの自由を決して奪いません」
わかってない
全然わかってない
私は結婚そのものが嫌なのだ
誰かと結婚すること自体が嫌なのだ
「アリー?」
「・・・騎士団は、私の居場所です、エリック」
「ええ、知っています」
「騎士団に入ってずっと、騎士として過ごしました」
「はい」
「私は騎士でいたいです、エリック」
「アリー、だから私と」
「私は、誰の妻にもならないでいたいのです
私は私のまま、騎士でいたいのです、エリック」
「アリー、それは無理です、あなたは女性だ
王女だ
いつまでも誰にも嫁がず騎士でいることなど、不可能です」
「・・・」
「アリー」
「それでも私は、私は、騎士でいられる間は、騎士でいたい
誰にも嫁がずに、騎士でいたい」
「アリー、私が、私があなたを守ります
私が」
「私は剣でいたいのです
この国を守る剣でありたい
この国の王となる、アーネストの剣でいたいのです
私は、守られたくない
私は、守りたいんです
この国を
この国の民を
この国の王となるアーネストを、私は守りたい
アーネストの剣で、いたいのです」
「・・・」
「騎士団はそのための、居場所なのです
誰にも嫁ぎたくない
純粋な剣でいたい
アーネストのための純粋な剣でいたい
私は、私は」
エリックは答えない
私は卑怯だろうか
友人でいてほしい人に友人であり続けてほしいと願うことが、そんなに卑怯なことだろうか
誰も私を求めないでほしい
ただ剣でいさせてほしい
アーネストの剣でいさせてほしい
アーネストのそばで、アーネストのために戦う、アーネストだけの剣でいたい
他には何もいらない
それだけでいい
それだけで、いいのに・・・
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