第19話 回想 舞踏会にて

夜会の警備に私は騎士として参加している

令嬢たちが、騎士姿の私を見て騒いでいる

一緒に踊ってください、というお願いもされる

同性からそう言ってもらえるのを、私は少し、嬉しいと思う

騎士として認められている気が、したから

でも実際は、王女がこうして騎士として夜会に参加しないで警護の一人でいることが、面白いのだろうけれど

・・・

私は着飾るのが苦手だ

騎士になれて本当に良かった

騎士になれなければ、きっと私は、今頃、どこかに嫁いでいたはず

魔力で身体強化してとはいえ、騎士とし誰もが認める実力を持ったからこそ、こうして夜会にも参加しないで、どこにも嫁がないでいられる


「姉上」

「殿下」

「・・・殿下はやめてください、姉上」

「ごめんなさいアーネスト、でも今は、任務中だから」

「交代はまだですか?」

「ええまだまだよ、さあ、あなたも夜会を楽しんできなさい」

「僕は、ここでいいです」

「王太子がそんなんじゃいけないわ、あなたとダンスを踊りたいご令嬢も大勢いるでしょう?」

「姉上こそそのご令嬢たちの誰よりも高貴な女性なんですがね」

「私は、ドレスよりこっちの方が性に合ってるのよ」

そう言って私は帯びている剣をポンポンと叩く

「そうかなあ、姉上は剣よりドレスの方がはるかに似合ってますよ」

「・・・」

弟は私が騎士になるのを応援してくれていた、昔は

でも最近、この二年ぐらい、私が騎士でいるのを面白くないと感じ始めている様子がある


姉で、王女である私がこうして騎士でいるのは、王太子として弟も、みっともないと思っているのかもしれない


「これでも、ご令嬢たちから人気があるのよ、私」

「そうでしょうね、姉上は、騎士の制服を着ていてもこの場にいるどんな令嬢や夫人よりも美しいから

そんな姉上をダンスの相手として侍らせることに喜びを抱くご令嬢は後を絶たないでしょうね」

「・・・アーネスト、なんだか、機嫌悪い?」

「そんなことはありませんよ、姉上

ただ僕は・・・姉上にドレスを着てもらいたい、そう思っただけです」

弟はとっくに私の背を追い越している

騎士でなければ、何のとりえもない私では、姉として誇れるものなんか何もない

「私、ドレスは嫌いなの、動きづらくて」

「ご令嬢は皆、頑張ってドレスを着ているのですよ、姉上

姉上はこの国で一番高貴なご令嬢なんですよ」

「アーネスト、私は、剣の方がいいの」

「僕は嫌ですよ、姉上には、剣なんか握らせたくない」

「・・・今夜はどうしたのアーネスト?少し変よ、いつものあなたじゃないわ」

「すみません、少し酔いすぎたみたいです」

「待ってて、キース!」

「はい隊長」

「王太子殿下がお気分が悪いご様子、休んでいただくよう、ついて行ってあげてください」

「了解しました」

「姉上、僕はそんなに酔っては」

「あなたは王太子なのよアーネスト、転んで怪我でもしたらどうするの?

いいから言うことを聞いて休んでいて

お父様には私から伝えておくわ」

「・・・わかりました」

部下のキースに付き添われて弟が歩いて行く

やっぱり少し酔っているみたいだ

足元にほんのすこしだけ、酔いが出ている

私がついて行った方が良かったろうか

いや私は任務がある

それに弟は、私なんかよりはるかにしっかりしている

そんなに心配する必要はない

大丈夫だ、きっと


「アリシア様、私と一曲踊っていただけませんか?」

「申し訳ありませんチェスター伯爵令嬢、私は騎士としての任務がありますので」

「そんなの、ほかの方に、殿方に任せてしまえばよろしいですわ」

「ははは・・・」

酔っているのだろう

不敬だとわかっていない

でも私は正直怒りはない

私はこの人たちとは違うのだ

男たちに混ざって戦う私は、どんな男よりも強いのだ

魔力の力とはいえ、私はここにいる誰よりも強い

その自負がある

良かった、と思う

「ねえ、アリシア様、ねえ、一曲ぐらいいいでしょう?」

「酔いすぎておいでのようですねご令嬢、さあ、椅子まで付き添って差し上げましょう、少しお休みになられますように」

「まあ、ついてきてくださるの?」

「・・・マックス」

「はい隊長」

「こちらのご令嬢を椅子までお連れしてください」

「そんな、私アリシア様がいいですわ」

「申し訳ありませんが、任務中ですので」

「そんな」

駄々をこねながらご令嬢が部下に連れられて行く

私はため息をつく

私は彼女たちとは違う

剣しか能がない女とはいえ、この国を守っている

この国を

民を

いずれこの国の王となる弟の、アーネストの国と、民を、私は守っている

私は剣なのだ

アーネストの、剣


私にはその自負がある

あのご令嬢たちとは違う

私にドレスなんかいらない


私は剣だ

この国を守る

アーネストの剣なのだ

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