第17話 お菓子
「あの、ご主人様」
「なんだ」
アーネスト、様・・・ご主人様は、私が奴隷としてご主人様に呼びかけることに何の疑問もない
最後に、この方に姉上と呼んでもらえたのはいつだったろう
あのおぞましい男に嫁ぐために出発する前の日だった
あの時、ご主人様は今より少し背が小さくてでも私よりずっと大きくなっていて、
私はあの時はまだ魔力が使えて、だからあの時の私の方がご主人様より強かった、でも
『怖い』
ご主人様のことをそう思ったのを覚えている
あの時なんでそう思ったのだろう
「アリシア?どうした?」
「あ、いえ、あの、ご主人様」
心の中でもすっかり私は、この方をご主人様と呼ぶようになっている
この方は私と違って、魔力有り無しに関係なく・・・ちゃんとした大人に育っている
魔力にずっと頼り切りだった私とは違う
「あの、そろそろ、少しお休みになられては」
「・・・そうだな」
ご主人様は目を通していた書類を閉じた
「お茶を入れてくれるか、アリシア」
「はいご主人様」
私はお茶を入れる
その間ご主人様は椅子からたってストレッチをなさる
「・・・机の上においてくれ」
「はい」
「お前も飲め、アリシア」
「はい、ありがとうございます」
私は言われた通りにする
旦那様は机で
私はソファで
それぞれお茶を飲む
私がお茶を飲んでお菓子を食べるのを、ご主人様はじっと見ている
いつも、そう
ご主人様は甘いものが昔から苦手で
前にした会話を思い出す
『私のために、ですか?』
『お前は甘いもの、お菓子が好きだからな、さあ、食べろ』
『はい、ご主人様・・・ありがとうございます』
私がお菓子を食べているのを、ご主人様は見ている
目元が、笑っている
私がお菓子を食べる姿って、そんなに面白いだろうか
『うまいか?アリシア』
『はい、おいしいですご主人様』
『何か食べたいものがあったら言え、用意してやる』
『ありがとうございます、ご主人様・・・あの、ご主人様はお食べにならないのですか?』
『俺はいい、お前が食べろ、無理しない程度に食べろ』
『はい、ご主人様・・・そういえば』
私はそのとき、何気なしに昔を思い出した
この方が小さいころのこと
『昔から、あなたは甘いものが苦手で』
『・・・』
『でも、私に付き合って我慢してお菓子やケーキを食べて、でも、食べきれずに残して』
何気なしに思い出しただけだった
『アリシア!』
突然、大きな声で、ご主人様に名前を呼ばれた
怒られている
頭より体が先に理解して硬直した
『俺はお前のなんだ?』
『ご、ご主人様です』
『そうだ、俺はお前の主だ
ではアリシア、お前は俺のなんだ?』
『私は、ご主人様の奴隷です』
『そうだ、お前は俺の奴隷、俺の所有物だ、アリシア、いいかよく聞け』
『はい、ご主人様』
『俺はお前の弟ではないし、お前も俺の姉ではない、お前は俺の奴隷、俺の所有物で、そして、アリシア、
お前はただの女だ、それを忘れるな』
もう姉として認められてはいないし、私だってこうして心の中でさえもうご主人様を呼び捨てにはできないでいる
でも
こうして改めて、言われると
『おい、泣くな・・・泣くなアリシア』
『・・・申し訳、ありません、ご主人様』
でも涙が溢れてくる
『アリシア、泣くな』
そう言ってご主人様は私を抱きしめてくれる
大きな体で
そしたら、涙がもっと溢れた
申し訳ありません、そう言おうと思うのだけれど、涙が溢れて止まらなくて
私はただご主人様の大きな体で抱きしめられていることしかできなかった
・・・
そんなことを思い出した
「アリシア、どうした?」
「いえ、お菓子が、おいしくて」
私は誤魔化した
隷従魔法は、ご主人様が私に命じない限り、発動しないようになっている
だから、嘘をつける、今は
だってそうしないと、また怒られるから
こうしないと、思い出を守れないから
私の小さな、弟との思い出たちを、守れないから
「そうか、いっぱい食べろ、無理しない程度にな」
そう言ってご主人様は笑う
そういえばこの方は小さいころから、私がお菓子を食べるのを見てると、こんな目で私を見ていた
こんな風に、こんな優しい目で
そんなことを一瞬思う
もちろんそんなこと言わない、言えない
でも、優しいご主人様の目が、昔と同じことが私は嬉しくて
だから私も笑顔で
「はい、ご主人様」
そうご主人様に答えた
私がそう答えると、ご主人様はまた、笑った
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