第12話 再会

「お前には奴隷としてのしつけがまず必要だね、アリシア」

そう言って、奴隷商人の女は笑った

判決が下されてすぐ、私は奴隷商人のもとへと、送られた

「あの」

私がそう言うと、女は無言で私の背中を小さな鞭で叩いた

「痛っ」

痛くてそう言うと、また、叩いた

「お前は奴隷なんだよ、それをわきまえた態度をしな」

「・・・」

「返事は?」

「は、はい」

また叩かれた

どうして?

「『申し訳ありません』、は?」

「え?」

また、叩かれる

「『申し訳ありません』、も言えないのかい」

「も、申し訳ありません」

もうぶたれたくない

私は頭を下げてそう言った

「床に座りな」

「え」

「座りな」

「は、はい」

私は、床に座った

奴隷商人の女を見上げる

「両手を前について、伏せな」

「・・・」

「また叩かれたいのかい?」

「は、はい」

私は言われたとおりにした

もう叩かれたくない

そのことで頭がいっぱいだった

「よし、じゃあそれで、さっき教えたとおりに言ってごらん」

「・・・」

「・・・」

奴隷商人の女が、ため息をついて、鞭を振り上げる気配がした

「申し訳ありませんでした!どうか、どうかお許しください、どうか、どうか」

鞭が怖い

叩かれることが怖い

それしか考えられない

「ああよくできたね、覚えときな、お前はこれからそうやってお前の主に従うんだ

お前をこれから買う主にね」

おぞましい男を思い出す

これは悪い夢だと思いたい

私はずっと悪い夢を見ている、きっと

そうだと信じたい

「お前はここでこれから奴隷の心得を覚えていく

お前がここを出ていくときは、一人前の奴隷になっている

娼館か、どこぞの金持ちの奴隷か、

どこに行っても奴隷として恥ずかしくないように、躾けてやるよ」


悪い夢であってほしい


「私が躾けてやる、お前ほどの娘はそうはいないからね、楽しみだよアリシア」


名前を呼ばないでほしい


でももうそんなことさえ言えない、私はそれをもうわかっていた






それから、しばらく、私は買い手がつく前の奴隷として、すごした

奴隷としての心構え

所有物としての、心構え

私は、適応していく自分を幾度も自覚し、悲しかった

悲しかったけれど、笑った


生きてさえいれば、きっと、会える


そう自分に言い聞かせる


あの子に会ったら、会えたら、言えたら、そしたら死のう


奴隷のまま生きながらえるよりも、人間として死のう


あの子はきっと、わかってくれる


私あの子を愛していることを


誰よりも大切であることを


・・・でも、会えるの?


本当に、会えるの?


この先、娼館か、どこかのお金持ちに買われていく私が、本当にあの子に、アーネストに、弟に会えるの?


・・・・・・


・・・・・・


私は何もできない


ただ、震えて、一日一日を過ごすしかなかった



そんなある日


私は私の買い手にとうとう会うことが決まった




「さあアリシア、こちらの方が、お前のご主人様だよ」


その人は、長身で、深くフードをかぶっていた


顔がよく見えない


年が若い


娼館のオーナーなのだろうか?


それともお金持ちなのだろうか?


わからない


でも、これからこの方が私の主になる


「さあ、挨拶をし」


奴隷商人の女が、私に挨拶を促す


「はい・・・

アリシアと申します

本日は、私をお買いあげくださってありがとうございます

これからご主人様の奴隷として、誠心誠意お仕えいたします

どうか末永く・・・可愛がっていただけますように・・・」


涙をこらえた


「アリシア」


奴隷商人の女とは違う声がした


私の名を呼ぶ声


私のよく知ってる声


世界で一番好きな人の声


私は顔を上げた


そこに、彼がいた


私の弟が、アーネストが、いた

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