第9話 汚名
「ハミルトン夫人」
嫌な呼び方で呼ばれた
見ると、兵が数人、私を見ている
「・・・父が、王が何者かに殺されました、私はアーネストを、王太子殿下をお守りします」
「・・・」兵たちが、剣を構える
「?弟は、王太子殿下はどちらですか?」
「剣をお捨てください、夫人」
夫人と言う呼び方にぞわっとする
私はもう騎士に戻ったのに
「?剣を?何を、それより、王太子の居場所を」
「剣を、お捨てください、夫人、どうか」
「・・・」
私はやっと状況を理解する
私は、王殺しを疑われているのだ
王女の私が
娘の私が
「ち、違う、違います、これは、これは」
こんな疑いをかけられたことは今まで一度もなかった
こんな時、どうすればいいのかも知らない
それに、こんなことをしている場合じゃない
「私は弟を探しに行きます」
アーネストを、守らねば
「捕えよ!」
兵たちの隊長らしき男がそう兵たちに命じる
「通しなさい!」
私は、兵たちの間をすり抜ける
剣を持っているので、兵たちを傷付けないように注意しつつ、王の、父の寝室を後にする
父の死を悼む気持ちが湧き上がる
でも今はそれより、弟を守らねば
アーネストを、守らねば
「アーネスト、アーネスト、どこ、どこにいるの?」
私は王宮内を駆け巡る
「いた、こちらだ、夫人を捕えよ」
兵たちが絶叫する
この人たちには聞けない
「夫人、止まってください」
「アーネストはどこ」
私は、兵たちの間をまたすり抜ける
涙があふれる
父殺しの疑いをかけられたことより、アーネストのことで、私は頭がいっぱい
アーネスト
アーネスト
どこにいるの?
今どこにいるの?
あなたは、無事なの?
アーネスト
「アーネスト!!!」」
私は叫びながら走った
どこを目指してか自分でもわからず
どこだろうといいから
弟に会わせて
私の弟に会わせて
気づくと、何十人の兵が、私を取り囲んでいた
「夫人、剣を捨て投降してください」
「・・・アーネストは、どこ?アーネストは」
「・・・ハミルトン公爵の謀反が発覚しました
あなたにはその共謀の嫌疑がかけられています」
「む、謀反?」
「これ以上は、あなたの立場が悪くなるだけです」
「私は謀反なんか知らない、知らない」
「国王陛下を殺した嫌疑も」
「私は父を殺してなんかいない!!」
私が、娘の私がどうして父を、お父様を
この兵たちはわかっていない
私が、私たち姉弟がどれほど父を愛していたか
この兵たちの誰一人わかってはいないのだ
「私は・・・アーネストはどこ?ねえ、アーネストは」
「王太子殿下は、ご無事です」
「無事?弟は無事なんですか?今どこに」
「それはお答えできません」
「教えて!」
「では剣を捨ててください、投降していただければ、王太子殿下にお会いできますでしょう」
「・・・」
「このままでは、我々は夫人を敵対するものとみなすしかありません
王太子殿下にお会いしたければ、剣を捨て、投降なさってください」
「・・・アーネストに会える?」
「ええ、きっと」
私は、剣を捨てた
「失礼します、夫人、両手を」
言われるままに、私は両手を差し出す
かちゃりと、手首にはめられたそれは、魔力封じの手かせだった
「あ・・・」
「これがなくては、あなたを捕えたことにはなりません、お許し下さい」
「・・・」
「ではまいりましょう、ハミルトン夫人」
その呼び方はもうやめて
あのおぞましい男はもう死んだのだから
だから、もうそんなおぞましい呼び方はやめて
私はそう思ったけれど、声に出なかった
それどころじゃなかった
「アーネスト、アーネストに会わせて」
「・・・」
兵たちは無言だった
無言で私を、魔力を封じられた私を、連れて行った
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